似鳥 鶏(にたどり・けい)
小説家
千葉大学教育学部卒業。2006年、北海道大学法科大学院在学中に『理由あって冬に出る』で第16回鮎川哲也賞に佳作入選し、翌年に小説家デビュー。ミステリー作品を中心に人気作多数。2014年に『戦力外捜査官』、2023年に『育休刑事』がドラマ化。近著でのオススメは『唐木田探偵社の物理的対応』。
人気ミステリー作家として数々のシリーズ作品を世に送り出しながら新たなジャンルへの挑戦も続ける似鳥鶏さん。小説家を目指したきっかけや創作のこだわり、千葉大生に向けたメッセージなどを語っていただきました。
ショートショートを手本に小説の基礎を身に付ける
読書遍歴や影響を受けた作家を教えてください。
デビューが決まるまでの経緯を教えてください。
似鳥
高校までは小説家になろうという気持ちはなく、教員か弁護士になりたいと思っていました。初めて仕事として小説家を意識したのは、千葉大学教育学部に在学中のことです。当時、私が所属していた音楽サークル内で、推理ゲームの『かまいたちの夜』が流行っていたのですが、メンバーを登場人物にしたミステリー小説を競作してみようという話になり、私も参加しました。ショートショートの経験しかありませんでしたが、きちんとオチをつけることを意識しながら、人物描写や状況設定、トリックの仕掛けや最後の種明かしなどを肉付けしていったら、自然と長い小説を書くことができました。特に自信になったのは、サークルの仲間たちが「続編が読みたい」と言ってくれたことで、小説を書き続ける原動力になりました。その後、司法試験に挑戦するために北海道大学法科大学院に進みましたが、少ない時間をやりくりしながらミステリーの公募にも励み、『理由あって冬に出る』が第16回鮎川哲也賞に佳作入選することができて、小説家デビューへとつながりました。結果的に弁護士にはなりませんでしたが、法科大学院での勉強はミステリー小説を書く上で法的な正確さを担保するのに役立っています。
こだわりは最後まで読者を飽きさせずに読ませること
ご自身の創作スタイルについて教えてください。
似鳥
こだわっているのは、どうやったら読者に喜んでいただけるかという点です。題材を考える際には、どんなテーマなら新鮮味があるかを検討しますし、ミステリーは結末の前に捜査や聞き込みといった退屈になりかねないシーンがありますが、そんなときにも飽きずに読ませるためにどうするかを工夫します。例えば、ボケ役の人物を登場させ、主人公にツッコミの役割をさせることでコントのような会話にするのもそうした工夫の一つです。また、私の本はコミックのような装丁になっているものが多いのですが、これはより多くの人に本格ミステリーを楽しんでいただけるよう、親しみやすい表紙で間口を広げる意図があります。
作品のドラマ化や賞の選考委員など活動の幅が広がっていますね。
似鳥
ありがたいことに、『戦力外捜査官』と『育休刑事』がドラマ化されました。私は文章でしか表現できないので、実際の映像や配役を見て「こんなイメージで見ていただいているのか」という新鮮な気持ちがありました。また、ドラマがきっかけで小説を知っていただけるケースもあるので、とてもありがたいと思っています。選考委員は、集英社のノベル大賞で2022年から務めています。私にとっても刺激になりますし、少しでも応募者のためになればと思って、なるべく長く丁寧な選評を書くように心掛けています。
焼き直しにならないよう常に新しいジャンルに挑戦
今後、書きたい作品の構想はありますか。
似鳥
ミステリーばかりを書いていると、どうしてもネタが枯渇してきて、過去の作品の焼き直しになってしまいがちです。それを防ぐために、ジャンルを問わず様々な作品を書いていきたいですね。最新作の『唐木田探偵社の物理的対応』はアクションですし、今後は、SFにも挑戦したいと思っています。また、小説ではありませんが、ゲームの原作にも興味があります。協力型卓上ミステリーゲームの原作を担当したことがあるのですが、チームで意見を出し合いながら作り上げていく作業は、1人で執筆する小説とは違う新鮮さがありました。機会があればまた挑戦してみたいと思います。
最後に、学生へのメッセージをお願いします。
似鳥
好きなことに夢中になって時間を使えることが学生の特権なので、やりたいことを何でもやってみてください。経験したことは必ず自分の引き出しになります。それから、千葉大学のOBとして声を大にして言いたいのが、西千葉キャンパスの素晴らしさです。広くてきれいですし、入学時にはここで学べることをうれしく感じました。私は千葉生まれで地元に愛着があり、小説でも特定の場所を設定していないものは千葉をイメージしているので、私の作品を読む機会があったら、ぜひそのあたりも注目してみてください。
都市伝説が実体を持った“新種の怪異”。怪異に立ち向かう方法はたったひとつ─物理攻撃だった。都市伝説×アクション×ホラー!
似鳥
本を読み始めたのは小学生の頃からで、特に好きだったのは、友人に勧められたデュマの『三銃士』シリーズや宗田理さんの『ぼくら』シリーズなどです。その後、中学、高校と進む中で、赤川次郎さんや星新一さん、北杜夫さん、筒井康隆さんなどを読むようになりました。中学生になった頃から自分でも物語を書き始めたのですが、そのときに良いお手本になったのが星新一さんのショートショート(超短編小説)です。いきなり長編を書こうとすると挫折しがちですが、ショートショートは短いのでアマチュアでも完結させることができますし、しっかりした設定や納得感のあるオチといった、ミステリーに必要な作法もこの時期に身に付きました。また、私の文体は改行と読点が少ないのが特徴ですが、これは筒井康隆さんの影響です。