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千葉大学 OBOG インタビュー

子どもたちの学習を支援するだけでなく社会も変わっていく必要がある。夢は活動の輪を全国に広げること。

認定NPO法人キッズドア 理事長

渡辺 由美子さん

※記事に記載された所属、職名、学年、企業情報などは取材時のものです

千葉大学との連携プロジェクト「IFUTO」の看板前で微笑む渡辺さん

渡辺 由美子(わたなべ・ゆみこ)

認定NPO法人キッズドア 理事長

千葉大学工学部工業意匠学科(現デザインコース)卒業。大手百貨店、出版社、フリーランスのマーケティングプランナーを経て、2009年にNPO法人「キッズドア」を設立。小中高生を対象とした無料学習支援、貧困調査、政策提言など、すべての子どもが夢や希望を持てる社会を目指して幅広い活動を広げている。

子どもたちと社会をつなぐ扉として2009年にNPO法人「キッズドア」を発足させ無償支援を続けている渡辺由美子さん。支援に乗り出した経緯や長年続けるモチベーション、千葉大生に向けたメッセージなどを語っていただきました。

社会全体で子育てを支援したいとの思いで活動開始

NPO法人「キッズドア」を立ち上げるまでの経緯を教えてください。

渡辺

キッズドア設立以前は、大学で学んだ意匠(デザイン)の知識を活かしてマーケティングに関連する仕事をしていました。最初は百貨店、次に出版社に勤務し、結婚して子どもが生まれたのを機に独立してマーケティングプランナーをやりながら子育てをしました。その当時の日本は育休制度も整っておらず、育児のためにはいったん会社勤めを諦めるのが一般的だったのです。その後、夫の仕事の関係で1年間、イギリスで生活したのですが、子どもを通わせた現地の小学校は完全な無償で、まったくお金がかかりませんでした。日本も公立小学校の授業料は無償ですが、学用品や学外活動費などのお金はかかるので、ひとり親家庭のような環境では大きな負担になる場合もあります。実際、私の子どもの同級生にも、夏休みにどこにも行けないという子どもがいるのを知り、イギリスのように社会全体で子育てを支援する仕組みが必要だと考えるようになりました。団体運営の経験もない状態でしたが、まずはできることからやってみようということで立ち上げたのがキッズドアです。子どもたちと社会をつなぐ扉という意味でこの名前を付けました。2007年に任意団体として立ち上げ、2009年には活動の幅を広げるためにNPO法人化しました。

キッズドアではどのような活動をされていますか。

渡辺

小中高生を対象にした無償の学習支援が活動の中心です。当初は、経済的な余裕のある家庭とそうでない家庭の子どもの体験格差を解消したいという思いがありましたが、この活動が知られるようになると、勉強を教えてほしいという親御さんの声が多く寄せられるようになったため、大学生のボランティアを募って学習会を実施することになりました。今は特に、高校生の学習支援やキャリア教育に力を入れています。また、目の前の子どもを支援するだけでなく、社会の側も変えていく必要があるという思いから、貧困の実態調査や公的な支援制度に向けた提言なども行っています。私自身、国の有識者会議などで意見を述べる機会も増えているので、今後も積極的に発信していきたいと考えています。

女子高校生のITスキル向上を千葉大学と連携してサポート

千葉大学との連携プロジェクト「IFUTO(イフト)」について教えてください。

渡辺

これからの社会では、ITリテラシーは必須のスキルですが、経済的な余裕のないご家庭では子どもにパソコンを持たせることが困難なケースもありますし、特に女子の場合は、ITやデジタルの知識に対して最初から苦手意識を持ってしまうため、職業選択の幅を狭めてしまいかねません。少しでもITやデジタルに慣れてほしいという思いから、千葉大学の墨田サテライトキャンパスで実施しているのが、女子高校生を対象としたIT教育プログラム「IFUTO」です。スタートは2022年7月。女子が興味を持って取り組めるよう、1期生はTシャツづくりを通してデジタルスキルを磨きました。2023年の2期生は、Tシャツをつくるだけでなく、販売にも取り組んでいます。デジタルに親しむのはもちろん、社会や大人と接する体験をすることにも大きな意義があると思っています。

今後の夢や目標をお話しください。

渡辺

2009年のNPO法人化から14年が経ちます。この間、東京、千葉、埼玉に加え、東日本大震災で被害のあった宮城でも学習会を実施し、参加した多くの子どもたちが社会に巣立ちました。ただ、キッズドアの規模ではできることに限界があるのも現実です。全国的に見ると地域格差もあるので、キッズドアのノウハウを提供することで各地の子育て支援団体と提携し、全国の子どもたちを支援できる体制を築いていければと考えています。また、せっかくここまで継続してきた活動なので、ゆくゆくは次世代の後継者を育てて、バトンを渡すことができるといいなと思います。

人生に無駄なことはないので積極的にいろいろな経験を

大学やこれまでの仕事で学んだことはどのように活動に役立っていますか。

渡辺

大学時代に意匠(デザイン)で習った「Form Follows Function(形は機能に宿る)」という考え方を大事にしています。これは、形に機能を詰め込むのではなく、機能を最大化させるためにデザインがあるという意味なのですが、社会の制度や組織運営など、あらゆることに通じるものだと思っています。また、百貨店時代には、クリスマスやバレンタインといったシーズンプロモーションを担当し、テーマの選定や広告、イベントなどを経験していたことが、学習会やIFUTOのようなプロジェクトを運営するスキルにつながりました。イギリス生活がキッズドアを設立するきっかけになったことも含め、人生には無駄なことはないと改めて感じます。

最後に、学生へのメッセージをお願いします。

渡辺

大学は、大学生にとってあらゆる学びの拠点だと思います。授業や研究、サークルといった学内活動はもちろん、アルバイトや旅行、ボランティアといった学外の活動をする際にもハブのような役割を担ってくれますし、千葉大学は全員留学のような方針からもわかるように、学生を外に送り出す度量を持った大学だと感じています。これからの人生の基礎をつくるためにも、積極的に一歩を踏み出して、いろいろなことに挑戦してください。

隣同士で座り、笑顔の渡辺由美子さんと渡邉誠理事

今回のインタビューは、渡辺さんの希望で墨田サテライトキャンパスで行いました。写真は当日のオフショット、じつは渡邉誠理事と渡辺由美子さんはご夫婦、工業意匠学科の先輩・後輩です。

※記事に記載された所属、職名、学年、企業情報などは取材時のものです

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