商業ビルや百貨店など都市部のビル屋上などでも盛んに行われている「都市養蜂」。実は千葉大学でも17年前からキャンパスでの養蜂が行われ、生産された商品は大学内だけでなく観光案内所やオンラインショップなどでも販売されています。
2024年3月には千葉市の食ブランド「千」の認定品の一つに選ばれるなど、ますます広がりを見せる「千葉大学はちみつ」。今回はこの「千葉大学はちみつ」の仕掛け人である千葉大学環境健康フィールド科学センター助教の三輪正幸先生にお話を伺いました。
「種なし果物」の研究から「ミツバチ」の研究へ
――先生が都市養蜂の研究を行うことになったきっかけについて教えてください。
三輪助教(以下、敬称略):私は千葉大学園芸学部の出身で、大学院では果樹の研究をしていました。卒業後に柏の葉キャンパスにある環境健康フィールド科学センターに採用され、県特産のビワを種なしに改良するための研究など、果樹に関する様々な教育研究活動を行っていました。
それらの教育研究活動をすすめるうえで、果樹の花が効率よく受粉し、実つきがよくおいしい果物を収穫するためにミツバチを活用してみようと考え、柏の葉キャンパスに巣箱を置いて飼い始めたんです。
このように初めは果実生産のためだったのですが、いざ飼い始めてみるとミツバチの生態がとても興味深かったことと、農業上の利用とは別にミツバチやはちみつの研究はまだ明らかになっていないことが多くあることに気づいて、2007年からもう一つの柱として養蜂の研究をスタートしました。
――そうなんですね。では、養蜂や採蜜について教えてください。
三輪:だいたい3月から11月までがミツバチの活動シーズンと言われているため、我々はその期間に巣箱を設置して蜜を集めます。ミツバチは巣箱を中心に3キロ四方の範囲を飛び、咲いている花から花粉と蜜を運ぶのですが、そのエリアにある花の種類によって集まる蜜が異なるため、はちみつの味や色も大きく変わるんです。
――商品を見ると「アカシア」や「菜の花」など花の名前が書いてあることが多いですね。
三輪:はい。世界中どこでもそうですが、特に日本の自然環境で、3キロ四方のエリアに咲いている花が完全に単一種類というのはありえません。商品には一つの花の名前が書いてあるケースが多いのですが、実際にはミツバチはさまざまな花から花粉と蜜を集めている例が極めて多いんです。
はちみつの商品名に花の名前を表記するには、養蜂家の集めたい花が多く咲くエリアに巣箱を置き、その花が咲く時期に蜜を集め、商品化するという条件をクリアすることが必要です。
また、DNA研究の進んだ食品のカテゴリですと、食品の産地偽装や苗木の海外流出といった品種に関する問題に対してDNA解析を利用する例が数多く話題に上がっています。我々は消費者がはちみつに関してもより正確な情報を得ることができるよう、はちみつやミツバチが持ち帰る花粉団子のDNA解析を行い、どのような花から花粉や蜜が集められたのかを正確に把握するための取り組みを行なっています。千葉大学の商品は「菜の花など」という表記をしており、成分表示欄には判明した他の花についても開示するようにしています。例えば、「柏の葉 四月のはちみつ」には80種類くらいの花の成分が入っているんですよ。
食材や料理に合わせて選べる個性豊かな12種類の「千葉大学はちみつ」
――80種類!それは驚きですね。「千葉大学はちみつ」にはいろいろな種類がありますが、その違いに教えてください。
三輪:千葉大学では現在、西千葉、柏の葉、墨田サテライトキャンパスの3箇所で採蜜を行っています。先ほどもお話ししたとおり、場所に加え、季節によって採蜜される花が異なるので、はちみつの味や色が変わってきます。例えば4月に採蜜されたものは、濃厚で少し硬めです。それが5月に採蜜されたものは、色がとても薄く、柔らかくさらっとしています。
我々は、各キャンパスで4月から7月まで採れたはちみつを、それぞれ「千葉大学はちみつ」として合計12種類の商品を出荷しています。
――たった1カ月でそんなに変わるんですね!ちなみに先生のおすすめは、どのはちみつでしょうか?
三輪:私はアカシア(正式名:ハリエンジュ)の蜜がメインになっている「柏の葉 五月のはちみつ」が一番好きですね。クセがなくすっきりとした味わいで、パンのような薄い食材と合わせても邪魔をしない味わいなのが特徴です。一方、ヨーグルトやチーズなどにかける場合はレッドクローバーがメインになる「柏の葉 七月のはちみつ」がおすすめです。色が濃いほどはちみつらしいインパクトのある味わいになるので、クセのある食材にぴったりなんです。
――食材や料理に合わせてはちみつを使い分けるというのはとても興味深いですね!
三輪:最近は、企業やお店などとコラボした商品作りにも数多く取り組んでいます。例えば墨田サテライトキャンパスの近くでは墨田美術館とコラボした葛飾北斎の浮世絵をパッケージデザインに取り入れた商品を販売しています。また、地元のスイーツショップなどに加工品の原料として使っていただくケースも増えてきています。
さらに、新たな商品として「クリーミーはちみつ」の開発も進めています。これは、はちみつを低温管理下で丁寧にじっくりとかき混ぜ、ゆっくりと結晶化を進めていくことで、真っ白で滑らかなクリーム状に仕上げたはちみつです。こちらはまだ試作段階なのですが、墨田サテライトキャンパスで試験販売したところ、一瞬で売り切れてしまうほど人気でした(笑)。
はちみつの研究を通じて達成したいこととは?
――先生は、今後、はちみつの研究を通じて、どのようなことを達成していきたいと考えていますか?
三輪:「千葉大学はちみつ」をより広げていきたいという思いのほかに、都市養蜂の研究を通じて伝えたいことがいくつかありますが、その一つに、多くの方に緑化について考えるきっかけになってほしいという願いがあります。
日本では、「地球のために植物を植えましょう」というような思想が強くあるように感じますが、本来、緑化啓蒙というのは道徳心に訴えるものではなく、ヒートアイランドを抑えたり、心が豊かになったりするなど、自分たちがより住みやすくするために緑が必要だと説明することが重要ではないかと私は考えています。
私は初等教育にも力を入れ、積極的に小学校での採蜜体験をしたり、はちみつの試食会を実施したりしています。そこで、「場所や時期、花の種類によって、はちみつの味や色が変わるんですよ。」という話をすると、参加した児童は、「帰り道に見つけた花の名前が知りたくなる。」と言うんです。舌で体験することで、「あの花の蜜を食べてみたいからプランターでこういう植物を育ててみよう」と、積極的に緑化を自分の問題として捉え、興味を持ってもらう環境を作れるという意味で、はちみつを通じた食育にも大きな価値があると考えています。
ぜひ「千葉大学はちみつ」を食べ比べて、味の違いを楽しみながら、ご家族や友人と地球環境や食べ物について考えるきっかけにしていただければ嬉しいです。
先生、貴重なお話をありがとうございました。「千葉大学はちみつ」は、公式オンラインショップでも購入することができるので、ぜひお試しください!
最後に三輪先生の下で学んでいる※、ベルギーのリエージュ大学から来ていた留学生のビクターさんにもお話を伺いました。
※大学院国際学術研究院の永瀬彩子教授と共同で指導・研究
――なぜ千葉大学を留学先に選びましたか?
ベルギーの大学では生物工学を専攻していて、DNA分析等を行い、昆虫が持つさまざまな情報を解析する研究をしています。留学前に千葉大学の先生とオンライン面談を行い、先生がとても温かく、また専門分野をより深く学べるという理由で千葉大学を選びました。
――実際に来てみた感想を教えてください!
千葉大学では養蜂や採蜜が実際に体験でき、私自身にとって大変貴重な経験となりました。先生方も優しく、またさまざまな国から来ている留学生も多いので、千葉大学に来て良かったと感じています。
現在、DNA抽出と解析をすすめていますが、千葉大学やその周囲にどんな花が咲いているのか、結果が楽しみです。
――千葉大学の魅力を教えてください。
研究面のほかに私が千葉大学に惹かれたのは、日本でも素晴らしいロケーションにあり、交通の便がよいからです。また、キャンパスが広くて緑が多いのもとても魅力的です。大学のウェブサイトは非常に分かりやすく、安心して来日することができました。