CHIBA UNIVERSITY

千葉大学 OBOG インタビュー

小説家デビュー10周年を超えて新たな挑戦へ。
題材として取り上げたいテーマは千葉大学時代に学んだ中東パレスチナ問題。

小説家

芦沢 央さん

※記事に記載された所属、職名、学年、企業情報などは取材時のものです

本棚の前で赤い椅子に座り微笑む芦沢 央さん

芦沢 央(あしざわ・よう)

小説家

千葉大学文学部史学科卒業。出版社勤務を経て、2012年、『罪の余白』で第3回野性時代フロンティア文学賞を受賞しデビュー。『許されようとは思いません』『カインは言わなかった』『汚れた手をそこで拭かない』『神の悪手』など人気作多数。2022年にデビュー10周年を迎えた。最新作は長編『夜の道標』。

ミステリー小説の世界で常に変化を続け作品の幅を広げながら新しい挑戦を続けてきた芦沢央さん。
デビューまでの経緯や創作スタイル、学生に向けたメッセージなどを語っていただきました。

高校時代に小説家を志し投稿活動を経てデビューへ

小説家を目指したきっかけを教えてください。

芦沢

文章や創作物には子どもの頃から親しんでいたので、原点はいくつかあります。幼稚園の頃に友達としていた交換日記は途中からリレー小説のようになっていましたし、小学校高学年では兄が読んでいた推理マンガが好きで、兄と犯人当てゲームをしたり、ちょっとしたミステリー小説を書いてみたこともありました。中学、高校と進むと、山田詠美さんやよしもとばななさんのような純文学に惹かれるようになり、私自身も純文学系の小説を書き始めました。ちょうどその頃、高校の夏休みの宿題で、小説の新人賞に応募するというものがあり、応募してみたら一次選考を通過。根が単純なので、調子に乗って次々に書いては新人賞に応募するようになっていきました。といっても、すぐに芽が出るわけもなく、大学、就職を経て、デビューするまでは12年かかりました。

デビューが決まるまでの経緯を教えてください。

芦沢

大学は千葉大学の文学部史学科に進みました。史学科を選んだ理由は、高校3年生だった2001年9月11日にアメリカ同時多発テロが発生し、中東の歴史に興味を持ったからです。在学中も小説家になりたいという夢は持っていて、文学部内の同人誌に参加したり、結果はなかなか出ませんでしたが、純文学系の小説誌に投稿したりしていました。ちなみに、当時の同人誌仲間からは、私も含めて3人のプロ作家が生まれています。大学を卒業していったんは出版社に就職しましたが、これも本に関わる場にいたかったからです。デビューできない時期が長くなると、時には諦めそうになることもありましたが、自分が本当に書きたいものが何なのかに向き合い続けた結果、純文学ではなく仕掛けやどんでん返しのあるエンターテインメント小説という自分なりの答えが見つかりました。そうして書いた長編作品『罪の余白』が第3回野性時代フロンティア文学賞に選ばれ、これが私のデビュー作となりました。

倫理観の変化をとらえた10周年記念の長編作品

ご自身の創作スタイルについて教えてください。

芦沢

デビュー以降、短編と長編をほぼ交互に書いています。イメージでいうと、短編は手をかけた料理をどこから見ても美しくなるように盛り付ける感覚で、長編は初めて訪れる建物で見取り図を描きながら全体を把握していく感覚。つまり、まったく別物なんですね。陸上競技の短距離と長距離のように、書くときに使う「筋肉」が違うので、交互に鍛えることで、表現の幅も広がりますし、自分の文章に目が届くようになったという実感があります。

テーマはどのように着想されるのでしょう。

芦沢

私の場合は最初に詳細を決めず、関心のあることや引っかかったことについて、とにかく書いていくという手法をとっています。例えば最新の長編『夜の道標』は、1998年を舞台に、現代から見れば倫理的に違和感を覚えるような場面を積み重ねていくことで、その違和感の先にあるものを見極めようとした作品ですが、着想のきっかけになったのは、時代とともに変化する倫理観に怖さを感じたことでした。小説家という仕事は作品が後々まで残ります。社会の倫理観が変化していくと、いつかは私が書いた本を私自身が許せないと感じることもあるかもしれません。この本を書いた昨年はちょうどデビュー10周年だったこともあり、小説家としてどうしてもこのタイミングで書いておくべき作品だと思いました。

10周年記念作品の『夜の道標』では、四半世紀前の倫理観を表現するために、現代から見ると違和感のあるディテールを積み重ねることで、小説の世界をつくり上げた。

大学時代に理解できなかった中東を題材にした作品に挑戦

今後、書きたい作品の構想はありますか。

芦沢

大学時代に専攻した中東史をベースに、パレスチナ問題をテーマにした小説を書きたいと考えています。学生当時、学んでも学んでもまったく理解できずに卒業してしまった苦い思いがあるのですが、小説は実際にそこに生きている人を描くので、論文をただ読むだけだった学生時代とは違う景色が見えてきます。正直、小説のためにパレスチナ問題を選んだというよりは、私自身が人生の中で考え続けたい、もっと知りたいから、小説を使って向き合うことにした、という感覚です。これまでの書き方では書けないので、今はシーンを書く前に短歌を作って思考や表現を圧縮してから、それを捨てて書くという創作法に挑戦しています。

最後に学生へのメッセージをお願いします。

芦沢

大学時代を振り返ってみると、興味があることを試しにやってみるのにあれほど適した時期はなかったと感じます。最近はとにかく最短で結果を出さなければならないような風潮が強くなっていますが、結果よりも過程から得られるものこそが長い時間自分を支えてくれると思います。卒業までの時間が減っていくことに焦ることもあるかもしれませんが(私がそうでした)、過程さえ経験していれば卒業後に積み重ねることもできるから大丈夫。自分がその行動に納得できるかを軸にしながら、ぜひ自由に楽しく、たくさん遊んでください。

※記事に記載された所属、職名、学年、企業情報などは取材時のものです

この記事をシェアする

千葉大学 OBOG インタビュー

OGOB MESSAGE

HOMEに戻る