CHIBA UNIVERSITY

千葉大学 OBOG インタビュー

農業現場の課題を解決するために起業。
オンラインカルテや専門家による栽培指導で栽培技術の継承をサポート。

株式会社INGEN 代表取締役

櫻井 杏子さん

※記事に記載された所属、職名、学年、企業情報などは取材時のものです

畑で微笑む櫻井 杏子さん

櫻井 杏子(さくらい・きょうこ)

株式会社INGEN 代表取締役

千葉大学園芸学部応用生命科学科卒業。在学中から農業者へのヒアリング調査を行い、総合的な農業情報ニーズの重要性を知ったことから、栽培指導のカルテ化を着想する。大学卒業後、2年間の社会人経験を経て、2015年2月に株式会社INGENを創業、代表取締役に就任。

2015年に農業ベンチャーの株式会社INGENを創業し後継者や新規就農者、異業種参入企業などを対象にITを活用した栽培指導サービスを提供する櫻井杏子さん。
農業への思いや事業内容、起業のきっかけ、千葉大学時代の思い出などを語っていただきました。

栽培に関する課題解決のために総合的な情報をカルテとして提供

2015年に起業された株式会社INGENはどのような会社ですか

櫻井

農業技術の継承を目的として、後継者や新規就農者、異業種参入企業などに対して、栽培指導のオンラインサポートを行うサービスを提供しています。サービスの内容は大きく3つ、栽培指導者と農家をつないで総合的な情報提供を行う「Mr.カルテ」、慢性的な病害虫の対策相談に対して最適な肥料を提案する「ファムサポ」、そして小ロットで在庫リスクの低い素材を活かした 農産加工でブランディングをサポートする「ファム’sキッチン」です。この3つのサービスがあれば、農資材の調達から栽培、販売まで、農業全体の流れをカバーできます。このうち、メイン事業として特に力を入れて展開しているのが「Mr.カルテ」です。

「Mr.カルテ」のポイントを教えてください。

櫻井

栽培に関するノウハウはこれまでもありましたが、肥料や農薬、農機具など、メーカーが細かく分かれていて、自分の畑に何が合うのかがわかりにくいという課題がありました。これまでスマート農業というと、生産性向上という目的に対して機械化や自動化を重視してきましたが、初期費用が高価だったり、病害虫など想定外の事態に対処できなかったりと栽培現場の現状と の間に溝がありました。そこで「Mr.カルテ」では生産性向上へのアプローチとして、病害虫など想定外を起こさない、起こしてもその時の対処をカルテとして共有することを目指しています。防除計画や病害虫の先回り対策はもちろん、病害虫が発生した場合や天候不順などで発育に問題があった場合は個別に対策を提供できますし、カルテに登録している栽培指導者のアドバイスを受けることもできます。もともと農業は経験や勘頼りの部分がありますが、オンラインにすることで、スピード感を持った指導が可能なだけでなく、コンテンツとして知識を共有できるのもメリットだと思っています。

「Mr.カルテ」の着想のきっかけは医師である父の何気ない一言

栽培を個別のカルテにするというアイデアはどうやって着想されましたか。

櫻井

カルテという発想は、株式会社INGENを起業する少し前、医師である父との会話で、使い勝手のいい電子カルテの話を聞いたことがきっかけです。医療カルテは、症状や診断結果だけではなく、治療や処方薬など、患者さんの病気に関する情報が一元化されていますよね。電子カルテならさらに利便性が高まります。私は園芸学部で遺伝子の研究をしていましたが、農業の課題を解決するにはより現場に近い発想が必要だと考え、農家さんに肥料相談と併せて、ヒアリング調査を行ってきました。そのときに感じたのが、農家さんごとに異なった課題があり、それぞれの処方箋が必要だということです。これはまさにカルテの発想そのものだと感じ、「Mr.カルテ」の開発へとつながっていきました。

畑に出るときは「Mr.カルテ」のキャッチフレーズが書かれた制服を着用

今後の目標について教えてください。

櫻井

個別の栽培指導で農業技術の継承を目指す「Mr.カルテ」は、優れた栽培指導者に使ってもらうことがサービスの質を高める最善策です。新規就農者は、4年以内に辞める確率が35%もあるというデータがありますが、その原因の一つは適切な栽培指導者に巡り合えないことだといわれています。幸い、私は千葉大学時代に現場の農業に触れていたので、指導者の方と技術的な話もできますし、今後も栽培指導者を充実させたり、ベテラン農家さんが指導者として活躍できるような体制を作ったりしながら、その知識や技術を新しい世代の農家さんに伝えることで多くの農家さんのお役に立ちたいと思います。また、近年注目されつつある農資材で、農作物が本来持っている生育力を高める「バイオスティミュラント」というものがあります。バイオスティミュラントを効果的に使うには細かいノウハウが必要なので、カルテを通じて栽培指導をする「Mr.カルテ」にピッタリです。減肥や減農薬にもつながるので、今後は日本でもニーズが高まることが見込まれていますが、日本でバイオスティミュラントを扱える企業はまだ少ないので、国内ナンバーワンシェアを狙いたいと考えています。

違う学科の先生からも学びを得られる千葉大学はとてもいい環境

大学時代の思い出を教えてください。

櫻井

私は園芸学部の中でも応用生命科学科でしたが、現場のことをもっと知りたくて、園芸学や緑地環境の先生と仲良くなりました。学科が違うとなかなか話しかけづらいのですが、きっかけをつかむために休憩スペースなどで待ち伏せをしていました(笑)。どの先生もとても親切で、私のような別学科の学生の質問にも喜んで答えてくれました。本当にいい環境に恵まれていたと 思います。

最後に、学生に向けてメッセージをお願いします。

櫻井

進路は人それぞれですが、どんな仕事をするにしても強みを作っておくと役立ちます。私の場合は、大学で応用生命科学をやりながらも、栽培現場に近いところで農業の課題を解決したいと考えていたことが仕事につながっていますし、卒業後に就職した会社では広報の仕事を2年間経験し、自社の成果を言葉にして伝えるという点で、会社の経営に役立っています。ぜひ広くアンテナを張って、いろんな経験を積んでください。

※記事に記載された所属、職名、学年、企業情報などは取材時のものです

この記事をシェアする

千葉大学 OBOG インタビュー

OGOB MESSAGE

HOMEに戻る