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CAMPUS LIFE

食べやすさと環境に配慮した納豆の新たなパッケージデザイン開発に千葉大生が挑む

※記事に記載された所属、職名、学年、企業情報などは取材時のものです

「フィルムがはがしにくい……」「かき混ぜにくい……」など、これらは納豆を食べる人であれば一度は感じたことがあるであろうお悩みではないでしょうか。そんな納豆のパッケージの課題を独自の発想で解決したのは、千葉大学工学部の5名のグループです。この納豆パックのデザインは、なんと「グッドデザイン・ニューホープ賞」(日本デザイン振興会主催)「日本パッケージデザイン学生賞」(日本パッケージデザイン協会主催)の入選を果たしたというから、また驚きです。
今回はメンバーである千葉大学工学部4年生の小松野幹さんと野畠歌乃さんにお話を伺いました。

写真左から野畠さん、小松野さん

「構造」にまで踏み込んだパッケージデザインにチャレンジ

――まずは受賞おめでとうございます! 今回のデザイン開発や受賞の経緯などについて教えてください。

小松野さん(以下、敬称略):ありがとうございます。
2022年に工学部デザインコースのプログラムとして、アメリカのシンシナティ大学と連携して実施するパッケージデザインを学ぶ授業*が開講されました。受講する学生はグループを組んで、実際に販売されている商品パッケージの新たなデザインを考案し、プレゼンに取り組みます。そこで自分たちのグループが1位を取ったことをきっかけに、学外のデザインコンペにも応募することになりました。

グループで1位を取った、納豆向け折り畳み紙パック容器

*本授業はCOILを使用した日米ユニーク・プログラム(JUSU:Japan-U.S. Unique Program using COIL)のひとつとして実施された。
COIL(Collaborative Online International Learning)とは、ICTを活用した海外大学との協働学習を行う教育手法のこと。千葉大学では、文部科学省の大学の世界展開力強化事業~に採択され、COIL型プログラムの充実化を進めている。

――今回は納豆のパッケージをテーマにしていますが、なぜ納豆を選んだのですか?

野畠さん(以下、敬称略):できるだけ多くの人が感じている悩みをデザインで解決したいね、というところから「食」をテーマに話を始めました。まず目をつけたのは、多くの人が利用するコンビニにある商品です。中でも納豆のパックには、メンバー全員が課題を感じていました。また、近年の日本食ブームでこれから納豆がどんどんグローバルに食べられるようになっていくだろうという感覚もあり、デザインを考えるタイミングとしてすごくいいなと思ったんです。

小松野:今回はビジュアルだけでなく、パックの構造自体をデザインすることにチャレンジしようと、グループ内で話がまとまりました。納豆はどの商品もほぼ同じパッケージを使っているので、課題を解決するデザインが提案できればインパクトも大きいなと考えたんです。

活動を振り返る小松野さん
デザインするうえで難しかった点を語ってくれた野畠さん

――構造まで! それはかなりのチャレンジですね。制作の過程を教えていただけますか?

野畠:私たちが最も重視したのは「実践」です。初回の授業が終わった後すぐにスーパーに行き、さまざまな種類の納豆を買って、課題の洗い出しを行いました。そこで挙がったのが「フィルムを剥がしにくい」「混ぜるときにこぼれそうになる」「洗わないとプラ容器としてリサイクルできない」という3つの課題でした。

小松野:課題を洗い出した後は、素材の選定に入りました。捨てやすさと、サステナブルであることから、たどり着いた素材は「紙」でした。納豆は日本の伝統食ですし、より「和」のイメージを持たせることも大切だと考え、紙であればクリアできるかなと。

授業の様子
「和」を連想させる「紙」を使用することに

ヒントは日本の伝統的な文化である「折り紙」

――確かに納豆はプラスチックの容器が多いですが、紙や経木を使っているものもありますよね?

はい。ただそのような商品も一部プラスチックを使っていたり、シンプルに1枚の経木で包まれている形だったりと、3つの課題を全てクリアするものではなかったんです。私たちは全ての課題を解決することを目標にしました。

検証を進めるなかで、ヒントを得たのが「折り紙」です。折り紙の要領で1枚の紙を使って折り目を活用したパッケージを作ることができれば、課題解決に加えて製造コストも下がるのではないかと考えました。

野畠:方向性が決まってからは、さまざまな形で試作品を作りました。ワンタッチで開けない、開いた状態で安定しないなど難航したのですが、最終的には「折りたたみ式の眼鏡ケース」を参考にした構造が条件を最も満たしており、授業のプレゼン直前になんとかギリギリで完成しました!

繰り返し作成した試作品の数々

――さまざまなところからヒントを得ながら完成させていったのですね。実際の評価はいかがでしたか?

野畠:身近な暮らしの中で誰もが経験したことがある、小さな不満を課題として扱った着眼点と、伝統的な折り紙からインスピレーションを受けて構造を考え、課題を解決に導いたことの2点を主に評価していただいたと思います。

小松野:日本パッケージデザイン学生賞を受賞した後、協賛企業の方とお食事をする機会があったのですが、その場に納豆の製造メーカーで働いている方がいらっしゃったんです。そこで興味を持ってもらい、持ち帰って技術チームの方にも見ていただきました。その結果もかなり好評で、密閉や耐久性といった条件もクリアしており、納豆菌も生きているので実現性は十分あるというフィードバックをいただくことができました。

――企業の方からも具体的に実現性があるという評価ももらったのですね! ところで授業内で1位を取って、授業担当の田内先生やグループで海外にフィールドワークへ行かれたとのことですが?

小松野:はい。この授業はパッケージデザインをプロのデザイナーから学ぶことができることから元々とても人気なのですが、1位を取ると海外にフィールドワークへ行ける、というのも人気の理由の一つだったと思います。

空港で記念にパシャリ
みんなで一軒家を借りて、ニューヨークに7日間滞在

野畠:今回私たちは春休みを利用してニューヨークに7日間滞在し、米国における納豆についての現地調査を行いました。そこで、現地スーパーの売り場で、お客さんにも声をかけながら情報を集めたのですが、海外では納豆を「サプリメント」や「プロテイン」のような感覚で捉えているという新たな発見もありました。同じ食べ物でも捉え方が違うことに気づけたことは、今後のデザインにも活きてくると思います。

現地のスーパーマーケットにて市場調査
ニューヨーク産納豆のためのパッケージデザインを試作

千葉大生ならではの感覚で、デザイン全体を考える

――少し話を変えて、工学部デザインコースについてお話を伺いたいと思います。なぜお二人は千葉大学でデザインを学ぶことを選んだのですか?

野畠:千葉大学ではグラフィックやプロダクト、パッケージ等のデザインはもちろん、人間工学や心理学、情報、材料といったあらゆる分野を横断的に学ぶことができます。そのため、1つの分野でのプロフェッショナルな技術に突出しているとは言いにくいのですが、デザイン全体として大切になる考え方や、マネジメントするスキルが広くついていったところがとても良かったです。

小松野:総合大学の一学生という立場でユーザーと似た感覚を持っている若者が横断的にデザインについて学び、社会課題などを考えながらデザイン制作を進めていくという千葉大学の授業スタイルが自分にはとても合っていたなと思います。

――それでは最後に、お二人の将来の目標について教えてください

小松野:まだあまり考えられていないのですが……。全ての項目を無視せず、全ての人に配慮したデザインができるようなデザイナーになりたいです。できるだけ自分ができることを尽くしながら、妥協せず取り組んでいきたいですね。

ちなみに、大学院での研究テーマは「紙」にしました。完全にこの授業の影響です(笑)。紙の新しい表現方法を考えながら、実用的なパッケージデザインに活かすことのできる研究に取り組みたいと考えています。

野畠: 私は多くの人が気づいていないような課題を鋭く見つけ、人に密着して解決できるデザイナーになりたいです。今は授業外の活動として、地域の方と協働して千葉のまちおこしを目的としたデザインプロジェクトを進めています。大学院でもこれを継続して、いつか自分のデザインが少しでも地域の方の生活を豊かにできると嬉しいです。


授業担当の田内先生にもコメントをいただきました

お忙しいところ、取材にも快くご協力してくださった田内先生

この授業は11グループに分かれて、それぞれに異なる対象でリデザインを行っていましたが、すべての提案がとても素晴らしく、アメリカに派遣するグループを1つに絞るのがとても困難でした。


シンシナティ大学や本学の先生方と議論の末、最終的にはこのグループが提案したパッケージに今までに無い構造が使われていたことや環境への配慮が考えられていたことなどが決め手になりましたが、他のグループも含めて学生たちのポテンシャルの高さにはいつも驚かされます。受賞も良い経験になったのではないでしょうか。これを機に、今後は学生たちに、企業との共同研究や国際デザインコンペへの参加も促していきたいと思います。

お二人とも、今回のパッケージデザイン開発によって多様な気づきや学びがあったようです。このような経験ができるのも、さまざまな分野の「デザイン」に触れられる千葉大学工学部の特徴かもしれません。

千葉大学では夏休み期間にオープンキャンパスを実施するほか、WEB OPEN CAMPUSではさまざまな情報をお届けしています。興味を持たれた方はぜひ一度アクセスしてみてください。


※記事に記載された所属、職名、学年、企業情報などは取材時のものです

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