CHIBA UNIVERSITY

CAMPUS LIFE

第5期メンバー募集中!数学者と大学生でビールづくり?!話題の「千葉大ビールプロジェクト」に迫る<前編>

※記事に記載された所属、職名、学年、企業情報などは取材時のものです

大学でビールづくり?しかも数学者と大学生が?それだけでもグッと興味を惹きつけられるのが、2021年からスタートした「千葉大ビールプロジェクト」。

同プロジェクトの詳細に迫るため、今回は発起人である理学研究院の萩原学先生とプロジェクトメンバーの竹山公平さん(理学部4年)、伊藤怜さん(法政経学部4年)に集まっていただきました。前編では、萩原先生を中心にプロジェクトを始動することとなった目的やきっかけ、さらに、これまで開発してきたビールについて紹介します。

左から伊藤さん、萩原先生、竹山さん

千葉大ビールプロジェクトは数学者の「ビールに対する熱い想い」から始まった

――「千葉大ビールプロジェクト」。タイトルだけでも興味深いですね!このプロジェクトがスタートすることになったきっかけについて教えてください

萩原:正直、完全に私の「熱い想い」のみです(笑)。発想したのは2021年でしたが、その頃はコロナ禍で色々と制約の多い時期でした。そのような中で「何か自宅でハッピーになれるようなものを作りたい」と思ったのがきっかけでした。その頃たまたま自分がクラフトビールに興味を持っていたのですが、「千葉大学」という名前でビールを開発したらおもしろいんじゃないか、みんなもこの企画に賛同してくれるのではないかと考えたのがきっかけです。

そして、偶然にも同年1月1日が、私の生まれ故郷の足利市と、そして大学時代から現在に至るまで住み続けている千葉市が、ともに市制100周年記念の日だったんです。「せっかくなら両市の誕生日を祝うビールを開発してみよう!」と決めました。

――それが第一弾「あしたのみち」(足楽味千)ですね。    

萩原:はい。最初は地元の友人などに声をかけてみたのですが、予想以上にみんな乗り気でした。誰もビールづくりの経験はなかったのですが、それぞれの立場でネットワークを活かして、次々と「商工会議所に声をかけてみる」、「市役所に話を通そう」と動いてくれました。

また、研究室の学生や、学生時代に所属していたサークル(JCK)に呼びかけたところ、複数の千葉大生が「ぜひ一緒にやりたい!」と声を上げてくれました。学生にはラベルのデザインや仕込み、瓶詰めなどほとんどの工程に関わってもらい、用意した約2,000本のビールはあっという間に売り切れました。

瓶詰めの様子
ラベル貼りの様子

――思いつき(笑)で始めたにしては、大成功ですね!

萩原:これで自分にも火がつきました(笑)。続けて第2弾のプロジェクトを立ち上げたのですが、「素人が勝手にビール作りに口を出している」と思われるのは嫌だったので、しっかりと作り方を学びたいと考えました。そう思ったきっかけは第1弾でお世話になった「MAKUHARI BREWERY」の創業者との会話です。彼は企業の研究者出身で、「ビール作りはとにかく数値計算だらけなんだ」と教えてくれました。

勉強会を通じてビールづくりの公式を学んでいきながら、レシピを1から作りたいという思いが強くなっていきました。また、どうせなら自分にしかできないようなビールにしたいと思い、数学者であるバックグラウンドから、「大学でしか学ばないような数学科の数学をビールづくりに取り入れよう」と考えたのです。大学で扱う数学の特徴として、「なんでも抽象化する」ということが挙げられます。ビールも「マンゴーっぽい」や「スパイシー」、「フルーティ」など抽象的な言葉で表現することが多いので、この組み合わせはおもしろいんじゃないかと考えました。

勉強会の様子

ただその場合、通常であればホップの苦さや香りを数値で表すようなことを発想すると思うのですが、私がそこで使ったのが「数が出てこない数学」でした。

「数が出てこない数学」で、ホップの組み合わせを図式化

――「数を使わない数学」。数学は数が必ず出てくるのかと・・。

萩原:数の代わりに文字を用いて方程式の解法などを研究する「代数学」という学問があります。これを使って、ホップの持っている特徴を視覚的に見ることができるようにしました。

具体的にはホップの持っている特徴を順序集合化し、視覚的に関係が分かる形にする「ハッセ図」という手法を使って一覧で表現しました。これによって、「このホップはこんな香りがするんだ」、「このふたつのホップを組み合わせるとこういう味になる」といったことが、一目でわかるようになりました。この図を使えば、ホップの細かい勉強をしていない人でも大まかな味や香りの方向性を考えることができるのです。

ハッセ図(提供:萩原先生)

この「概念を図で表す」というテクニックは、80年代ごろからドイツで流行っていたのですが、実際に何かに使おうとすると絵が複雑になってしまうなど、やや使いにくいものでした。それがホップを題材にしたところ、とても見やすい図になったのです。ホップの特徴とハッセ図との相性が非常に良く、元々使ってみたいと思っていた数学の概念と「ガチっとハマる」瞬間を感じることができました。

その後、参加した学生たちとこの図を使って議論しながらレシピを1から考案し、完成したのが「Chiba Dorado 0(チバドラド ゼロ)」です。残念ながらクラフトビール全国大会での受賞は逃してしまいましたが、千葉県内にあるクラフトビール醸造所兼ビアパブ「むぎのいえ(習志野市)」で提供され、多くの方に楽しんでいただきました。また、「数学者×ビール」というキーワードに興味を持たれたのか、多くのメディアにも取り上げていただくことができました。

日本発のビアスタイル「緑茶ビール」で念願の銀賞を受賞

――そして最新の取り組みが「緑茶ビール」ですね。

萩原:はい。これまでもお茶を使ったビールは存在していたのですが、2022年に日本のクラフトビール・アソシエーション(日本地ビール協会)が新しいビアスタイルとして認定し、緑茶ビールの定義が発表されたんです。数学ビールでも協力をいただいた「むぎのいえ」の店長が、「次はぜひ緑茶ビールに挑戦しましょう!」と勧めてくれたこともあり、新たなチャレンジとして取り組むことになりました。

   完成直前の緑茶ビール
仕込みの様子

――緑茶ビールに取り組むに当たって、前回から改善したことはありますか?

萩原:まずはビアスタイルをしっかり理解することに努めました。ただ、緑茶ビールはビアスタイルとして定義されてから間もなかったので、参考にするものがほとんどなく難しいテーマでもありました。そこで、国際コンクールに出すことを決めていたこともあり、「世界から見た緑茶」はどのようなものかを徹底的にリサーチしました。緑茶は今や世界中で人気ですが、外国で売られているほとんどのペットボトルの緑茶は砂糖がたくさん入った甘い飲み物なんです。コンクールはさまざまな国から審査員が来るので、彼らがイメージする味わいを意識する必要があると考えました。

また、私は今年の夏まで1年間アメリカに住んでいたのですが、アメリカでは個人でのビール製造が認められているので、自宅で8種類くらい試作していました。これで、「ビールはこうやって作るんだ」ということをかなり理解することができました。まさにビール修行ですね(笑)。

学生たちによる努力や自身の経験が重なって、完成した緑茶ビール「風の通り道」は、クラフトビア・アソシエーションが主催する国際的なビール審査会 International Beer Cup 2023で、銀賞を受賞することができました。

後編では参加された学生お二人にも入っていただき、学生目線から見た千葉大ビールプロジェクトの魅力やこれからの展望などについて紹介していきます。また、ただいま第5弾「さつまいもビール」のメンバーを募集しています。興味がある方は、萩原先生もしくは千葉大ビールのXアカウントにDMを!   

※記事に記載された所属、職名、学年、企業情報などは取材時のものです

この記事をシェアする

おすすめ記事

HOMEに戻る