馬上 丈司(まがみ・たけし)
千葉エコ・エネルギー株式会社代表取締役
千葉大学人文社会科学研究科公共研究専攻博士後期課程修了。2012年、千葉大学特任講師時代に学生3人と共に千葉エコ・エネルギーを設立し、再生エネルギーによる地域活性化事業や営農型太陽光発電に携わり、有識者としても各方面で活躍中。
日本で初めての公共学の博士号を取得したのち千葉大学発のベンチャーを起業した千葉エコ・エネルギー代表の馬上丈司さん。
会社で取り組んでいることや地域への思い、学生に向けたメッセージなどを語っていただきました。
再生可能エネルギー普及のため研究ではなく起業を選択
千葉エコ・エネルギー株式会社はどのような会社ですか
会社を立ち上げた経緯を教えてください。
馬上
私は千葉大学で公共政策を学び、博士号を取っていますが、博士課程の最終年に東日本大震災と、それに伴う福島第一原子力発電所の事故が発生しました。当時の私の研究は、地方自治体のエネルギー政策に関するもので、2030年に原子力がエネルギーの半分を占めることを前提としたものでしたが、それが根底から崩れてしまった。再生可能エネルギーの重要性について意識したのはそれがきっかけです。博士号取得後は、千葉大学で特任講師の任に就きましたが、研究者のままでは再生可能エネルギーを世の中に広めるのが難しいと感じ、思い切って事業として取り組もうと考えました。
自社事業として農業にも参入し営農型太陽光発電を運営
会社の強みは何でしょう。
馬上
4つあります。1つめは、私自身が博士号を取得していることもあり、研究や調査に強いということ。国や自治体、企業からの信頼を得やすいという点で、他のベンチャーと比べても大きな差別化要因です。2つめは、千葉大学発のベンチャーとして地域創生や活性化に貢献できること。ご存じのように、2019年の房総半島台風で、千葉県では大規模な停電が起きました。こうした災害が起きたときに、発電施設や小型EVを活用することで、地域の電力や移動手段を提供できるようにする取り組みにも力を入れています。3つめは、私の研究分野が公共政策だったため、制度設計や政策提言といった発信ができること。最近では、農林水産省の有識者会議のメンバーも務めさせていただいています。そして4つめは、自社事業として営農型太陽光発電を運営しており、当事者としてのノウハウを蓄積していることです。これは、営農型太陽光発電を始める事業者のサポートをするうえで、大きなアドバンテージとなっています。
営農型太陽光発電に行き着いた経緯を教えてください。
馬上
従来の太陽光発電は、山林を削るなど環境に負荷をかけるものも多く、徐々に限界が見えてきていました。そんななかで、設立から1年ほど経ったときに、たまたま千葉市内で営農型太陽光発電に取り組まれている方と出会いました。この方法なら、太陽光で発電した電力を施設や農機具の電力として使えます。農業については経験も知識もゼロでしたが、この方法で農業が可能なのかを自ら確かめたいと思い、営農型太陽光発電に参入しました。2016年に、匝瑳市に「匝瑳飯塚SolaShare1号機」を、2018年には千葉市に「千葉市大木戸アグリ・エナジー1号機」を開設し、育てた作物は販売もしています。こうした取り組みはまだまだ社会的にあまり認知されていませんが、これから本格化するスマート農業との親和性も高く、事業としての伸びしろは大きいと考えています。
グローバルに活躍したいなら学位の重要性も知っておいてほしい
学生時代の思い出を教えてください。
馬上
大学2年のときに、所属していたゼミの倉阪秀史先生の主導で発足した千葉大学環境ISO学生委員会に参加したことが印象に残っています。最初期メンバーとして、委員会の仕組みをつくったり、大学の教員や職員、関係業者の皆さんと様々な折衝をしたり、今になって考えるとベンチャーの創業者に通じるようなことをしていて、自分にとって基盤になっているのかなと感じています。
最後に、学生の皆さんへのメッセージをお願いします。
馬上
私は東日本大震災をきっかけに起業への道を歩み始めましたが、皆さんは今、コロナ禍という事態に直面しています。これは、世の中の価値観がガラリと変わるという稀有な経験をしているということに他なりません。しっかりと自分を見つめて、これから何をやるべきかを考える機会だという前向きな気持ちで頑張ってください。
また、学位の重要性を認識してほしいと思います。学位を取得するというのは、理系文系を問わず専門性が担保され、自らの可能性を広げることにつながります。私自身、海外のクライアントと会う際に、博士号を持っていることで信頼されるケースが少なくありません。千葉大学はグローバル人材の育成に力を入れていますが、世界を相手にするなら、英語だけでなく学位も強力な武器になることを知っておいてください。
馬上
もともとは再生可能エネルギーに関するコンサルティングを行うベンチャー企業として、2012年に設立しました。設立当初は、再生可能エネルギー全般に関する日本国内の導入状況やポテンシャルを調べたり、導入を希望する事業者を支援したりといった業務が中心でしたが、現在は、農地の上部空間に太陽光パネルを設置して、農業と太陽光発電を同時に行う「営農型太陽光発電」に力を入れています。自社で農場を運営するほか、導入コンサルティングも行っています。