千葉大学では、令和6年4月に11番目の学部となる「情報・データサイエンス学部」を設置することになりました。情報・データサイエンス学部では、データサイエンスに関する研究を行うとともに、データサイエンスを活用して社会の課題解決を担う人材を育成します。新しく創設される情報・データサイエンス学部の特徴や目指す方向性について、学部創設に関わった3人の先生方にお話を伺いました。
データサイエンスに必要な3つの力を身につける
——情報・データサイエンス学部がどんな学部なのか教えてください。
佐藤先生(以下、敬称略):統計学やAIなどを使ってビッグデータを読み解き、課題解決に活かすデータサイエンティストへの期待が世の中で高まっています。大学としてそうした人材を育てる使命があるだけでなく、千葉大学自体もデジタル技術を活用して新しい将来像を描こうとする中で、今回新しい学部として情報・データサイエンス学部の設立が決まりました。総合大学として色々な学問の専門家の知識を融合して、幅広いテーマで実践的な内容を学ぶことができるのが、千葉大学の情報・データサイエンス学部としての大きな特徴です。
——そもそもデータサイエンスとは何か、簡単に教えてください。
塩田:『デジタル大辞泉』(小学館)には、「大量のデータから、何らかの意味のある情報、法則、関連性などを導き出すこと」とあります。昔は、ニュートンのような天才が実験や理論によって色々な発見をしてきましたが、現代は無線通信が発達して自動で大量のデータを集められるようになり、集まった膨大なデータをスーパーコンピュータやAIで処理して法則を見つけることができるようになっています。こうしたスキルを身につけたデジタル人材は大学だけでなく企業に就職してからも活躍できます。
——学部ではどんなスキルを身につけるのでしょうか。
塩田:データサイエンスで必要とされる3つの力をもつデータサイエンス技術者を養成します。
① データサイエンス力
統計学やAIなどの知識とプログラミング能力を駆使してデータを分析し、データに潜む情報や法則を見つける力。データの背景にある構造を推測してモデリングすることも、これに含まれます。
②データエンジニアリング力
プログラミングスキルを活用してシステムを構築したりデータを加工したりする能力。アルゴリズムだけでなく周辺の工学技術も学べます。
③データサイエンス展開力
社会の課題解決や新規ビジネスの発掘につなげることができるようになる能力です。
——今、情報・データサイエンス学部を新設した理由はなんでしょうか。
佐藤:もともとは工学部総合工学科の情報工学コースで、コンピュータや情報通信技術を学べるようになっていました。しかし、分野を超えてもっと実践的な内容を身につけてほしいと考え、学部として新設することにしました。外から見ても、データサイエンスを学んでいるということがわかりやすくなったと思いますよ。
さまざまな専門分野にある具体的なデータに触れながら学べる
——千葉大学でデータサイエンスを学ぶことの特徴や強みには何があるのでしょうか。
塩田:文系や理系というくくりにこだわらずに、データサイエンスのツールを使う方法だけでなく、ツールの中身や原理まで学べるのが特徴です。総合大学としての千葉大学の強みを活かして、「医療・看護」、「環境・園芸」、「人間・感性」などの専門分野で使われている実際のデータに触れながら実践的な手法を学ぶことができます。
——具体的にはどのようなデータがあるのでしょうか。
眞鍋:「医療・看護」では、例えばX線画像やMRI画像、診断書などをデータとして処理することで、最適な治療法を出力できる可能性があります。「環境・園芸」については、千葉大学環境リモートセンシング研究センターで取り組んでいる、衛星画像から森林環境や自然災害を分析する研究を具体的に紹介できます。作物を育てるのに最適な気温や土壌水分量の分析も含まれます。「人間・感性」においても、心理学や認知科学という分野ではデータ解析のスキルが必要とされていて、人間そのものの理解に欠かせないものになっています。
——先ほど「ツールを使う方法だけでなく、ツールの中身や原理まで学ぶ」とおっしゃっていましたが、これについても具体的に教えてください。
眞鍋:例えば、今はスマートウォッチを使って位置情報や運動量、睡眠時間などを計測できますが、こうした測定装置や通信技術は情報工学の分野になります。そして、計測できたデータをどう処理してどう解釈するか、そして病気の予兆を見つける、といったことはデータサイエンスの分野になります。情報・データサイエンス学部では、装置や通信、そしてデータ処理の方法をトータルに身につけることができます。
求めるのは、データサイエンスで世の中を変えたい人
——どんな学生に入学してほしいと考えていますか。
眞鍋:数学や理科全般に興味があって、得られたデータにどんな意味があるのかを考え、何が潜んでいるかを見つけ出すことがおもしろいと思っている人にはピッタリだと思います。データを処理するアルゴリズムや解析手法だけでなく、データからわかったことをもとに世の中の色々なことの改善や効率化を実現したり、新しいビジネスにつなげたりすることに興味がある人にも来てほしいですね。
また、データサイエンスでは、多様な価値観をもつ人たちが集まってデータを多角的に見ることが必要になります。女子だからとためらわずに入学を目指してほしいと思います。2025年度入学では学校推薦型選抜の募集人員30名のうち半分の15名は女子枠として設けています。
——大学卒業後にはどんな進路がありそうでしょうか。
眞鍋:データサイエンスの知識は社会のあらゆる場所で必要とされています。通信業や製造業のようにデータを直接扱っているところだけでなく、金融機関や自治体などで埋もれているデータを掘り起こして業務改善や新規事業に貢献するようなところでも活躍してほしいと願っています。
——どんな企業でもデータをもっているはずなので、埋もれたデータを活用するという意味ではかなり幅が利きそうですね。
眞鍋:そう思います。母体となる工学部総合工学科情報工学コースとは異なるジャンルの企業等、新たな道も開けるのではないかと期待しています。もちろん、大学や他の研究機関に所属してデータサイエンスを究める研究者になりたいという方も歓迎します。
千葉大学の核となる学部へ
——それでは最後に、情報・データサイエンス学部を今後どうしていきたいかについて、一言ずつお願いします。
塩田:11番目の学部として千葉大学の新しい特徴にしていきたいですね。他の大学でもデータサイエンスの学部や学科ができているので、総合大学としての千葉大学の強みを活かし、大学のデータサイエンスの核となる学部に発展できればと考えています。
佐藤:データサイエンスは専門分野を問わずに今後重要なキーワードになるので、情報・データサイエンス学部を中心に大学全体の分野横断的な橋渡しの役目となるような存在になれば、千葉大学全体も盛り上がっていくと思います。