リンパ浮腫の画期的な診断法を当事者として自ら事業化したい
起業を目指す人材が仕事を続けながらスタートアップに挑戦できるEIR制度。千葉大学では2024年に導入されました。挑戦を続ける4名の中から大学院工学研究院の小川良磨特任助教の事例を紹介します。
![小川 良磨 千葉大学EIR。千葉大学大学院工学研究院特任助教](https://chibadaipress.chiba-u.jp/wp-content/uploads/2024/12/special_202412_07-1024x683.jpg)
小川 良磨(おがわ・りょうま)
千葉大学EIR。千葉大学大学院工学研究院特任助教。日本学術振興会・特別研究員-PD。千葉大学大学院融合理工学府博士後期課程修了。「医療×工学」をキーワードとした研究を軸に社会実装を推進し、生体可視化技術を使ったリンパ浮腫診断の医療機器を開発中、事業化に挑む。
EIR制度について教えてください
片桐
EIRは日本語では客員起業家と呼ばれます。起業を志す人材が会社や大学などの組織に一定期間所属して起業を目指す制度です。千葉大学では一期生として4名を採用しました。
小川
私は、千葉大学大学院工学研究院特任助教、日本学術振興会の特別研究員という肩書がありますが、並行して大学での研究成果を活かした起業を考えており、EIR制度を活用して事業化に挑戦しているところです。
小川さんが事業化しようとしている研究内容を教えてください
小川
私の研究テーマは、電気インピーダンストモグラフィ(EIT)法という生体可視化技術を使ったリンパ浮腫診断です。リンパ浮腫は主にがん治療が原因でむくみが起こる症状で、痛みはないものの、発症してリンパの免疫機能が低下すると細菌感染などのリスクがあります。近年の研究成果により、早期発見できれば治療で抑えられる可能性が示唆されていますが、従来はCTやMRIといった患者さんに身体的な負担のかかる診断法しかなく、早期発見自体が難しいという課題がありました。私が研究してきた生体可視化技術は、体脂肪計や体組成計と同じように、微弱な電気を流して体内の状態を可視化する仕組みで、簡便かつ体の負担もない診断が可能となります。
事業化しようと思ったきっかけは何ですか
小川
研究を始めたのは、学部4年で武居昌宏研究室に所属したときです。学部卒業後に1年間、英国留学で再生医療におけるEIT法の応用について学び、帰国して武居研究室に戻ったタイミングで起業を考え始めました。リンパ浮腫の患者さんに何度もヒアリングするうちに、自分も当事者の一員だという思いが生まれたのが起業しようと思った理由です。
片桐
小川さんの英国留学は工学分野のはずが、当初の予定とは異なり再生医療の研究をすることになった経緯がありました。通常なら途方に暮れるところですが、小川さんはピンチをチャンスに変え、工学での研究を医療に活かす道を見出しました。このバイタリティは起業家そのものだと思います。
![片桐 大輔(かたぎり・だいすけ)
千葉大スタートアップ・ラボ責任者。千葉大学大学院国際学術研究院教授。](https://chibadaipress.chiba-u.jp/wp-content/uploads/2024/12/special_202412_08-1024x683.jpg)
千葉大スタートアップ・ラボ責任者 / 千葉大学大学院国際学術研究院教授
起業に向けた経緯について教えてください
小川
修士の期間からJST(科学技術振興機構)の「START」というプロジェクトに応募し、最初の2年間は採択されなかったのですが、博士号を取得した2022年のタイミングで採択となりました。このプロジェクトは最終的な起業が達成目標に設定されているため、必ず社会実装をする必要があります。
片桐
千葉大スタートアップ・ラボが設立されたのがちょうどその時期でしたね。JST事業の場合、事業期間のあいだはプロジェクトに対しては資金が出ますが、起業後の経営について、今から考えておく必要があります。小川さんは当事者として自ら経営したいという思いが強かったので、EIR制度はまさに小川さんのための制度ともいえるかもしれませんね。
小川
千葉大学でEIR制度が導入されたのは今年ですが、2022年当時から片桐先生には起業家やベンチャーキャピタリストの視点で多くのアドバイスをいただきお世話になっています。
特に助かった支援はありますか
小川
医療に関係する事業は法的にクリアすべき点が多々ありますが、そうした面で専門的なアドバイスをもらえる方を紹介していただけたことが助かりました。
片桐
千葉大スタートアップ・ラボが連携している千葉大学IMO Business and Technology advisorの中から大手グローバル医療機器メーカーに勤務されている方の支援を受け、アドバイスをいただきました。アドバイザーについては、単に業種が近いから相談するということではなく、事業への理解度やレベル感なども考慮した上で、千葉大スタートアップ・ラボでおつなぎするようにしています。
EIRの立場から、今後、千葉大スタートアップ・ラボに期待することを聞かせてください
小川
EIRは起業を目指す人にとっては有意義な制度ですが、起業に興味がある人の中には、社長ではなく参謀のような補佐をするタイプもいると思います。私自身、右腕となってくれる人を探しているので、千葉大スタートアップ・ラボがそういった人材をつなぐ役割を担ってくれると嬉しいです。
![小川 良磨(おがわ・りょうま)
千葉大学EIR。千葉大学大学院工学研究院特任助教。](https://chibadaipress.chiba-u.jp/wp-content/uploads/2024/12/special_202412_06-1024x683.jpg)
千葉大学EIR / 千葉大学大学院工学研究院特任助教
片桐
適材で力を発揮する場所はいくらでもあると私も思います。千葉大スタートアップ・ラボは、アントレプレナーシップマインドを持った人材が滞留するエコシステムのハブになることを目指しているので、小川さんの期待に応えられる組織になっていけるようにますます頑張ります。EIRだけでなく、スタートアップに興味がある全ての学生や研究者を支援していくつもりなので、今後ともご期待ください。