CHIBA UNIVERSITY

SPECIAL

横手幸太郎新学長に聞く 
誰もが生き生きと活躍できる千葉大学へ

※記事に記載された所属、職名、学年、企業情報などは取材時のものです

今、千葉大学にはどのような役割が求められているのか?
必要とされる人材の育成や社会貢献に資する研究の推進、経営力の強化や学内の環境整備といった構想について横手幸太郎新学長にインタビューしました。

2020年4月から千葉大学医学部附属病院の病院長と千葉大学副学長を兼任してきましたが、2023年11月に病気でご逝去された中山俊憲前学長から引き継ぐかたちで、2024年4月、学長に就任しました。そのため、中山前学長が取り組まれた「輝かしい未来を牽引する世界に冠たる千葉大学へ」という目標を実現していく責任を感じますし、そうした中で私自身の独自性も打ち出しながら、千葉大学を発展させていければと考えています。

まずはこれまで千葉大学が取り組んできたことをどうすれば最大化できるかを考えていきます。大学の本分は、教育、研究、社会貢献の3つですが、加えてこれからの大学は、経営基盤と学内の環境整備についても取り組む必要があると感じています。組織や環境が良くなれば、学生も教職員も自分らしさを発揮でき、教育や研究が進みますし、それが社会貢献にもつながります。誰もが活躍できるような循環の仕組みをつくり、社会から信頼され、親しまれ、誇りとされる大学としていくことが私のビジョンであり使命と考えます。

教育については、千葉大学は「つねに、より高きものをめざして」の理念のもと、最高学府にふさわしい優れた学問を学修する中で、高い知性と豊かな人間性を育み、グローバル社会で活躍できるリーダーの育成を目指しています。今年度からはデータサイエンス時代に対応した人材を育成するため、情報・データサイエンス学部と学府を新設しました。ビッグデータやAIをどう活用するかは、文系理系を超えて社会で活躍していく必要条件になっていくので、領域横断的にデータを扱える人材を育成するのは、新たな価値創出のためにも意義があると考えています。
日本の人口が減少し、世界の国境の壁も低くなる中、グローバル化はますます重要になります。グローバル人材の育成を掲げる千葉大学にとっては、全員留学は強みの一つです。一方、留学はあくまで手段であって、目的は異文化体験を通じて自分を豊かにすることです。実際に海外に行くことはとても重要ですし、また、コロナ禍により物理的な海外渡航ができなくなったことで発展したオンラインの活用には時間やコストの面で利点もあります。両者を融合し、学生の皆さんが無理なく学習目的を達成できるような、柔軟で多様な方法を検討していきたいと思います。

千葉大学は昨年、文部科学省の「地域中核・特色ある研究大学強化促進事業」で、全国12大学の一つに採択されました。本学が強みを持つ研究を最大限に活かすとともに、幅広い研究分野を伸ばしていきたいと思います。一例として、千葉大学は、世界の免疫学に大きな影響を与えた多田富雄先生以来、連綿と続く国内有数の免疫学のメッカであり、医学部附属病院もコロナ禍のワクチン研究で存在感が高まりました。各学部の先進的な研究を進めるとともに、外部へ向けた発信もこれまで以上に強化していきたいと考えています。
さらに、千葉大学は総合大学であることが大きな強みです。先ほど触れた情報・データサイエンス研究を発展させるとともに、学部間の連携を活性化し、領域を超えた新しい研究が展開されることを期待します。

はい、大学は人と知を育む場所です。現代は閉塞感がある時代ですし、日本は国土が狭く資源も少ないからこそ、前例にとらわれず自らの判断で道を切り開いていけるたくましい人材、そして社会課題を解決するような研究の成果が重要になってきます。教育や研究で生み出した成果や強みを社会貢献に活かしていければと思います。

私は2020年から4年間、医学部附属病院の病院長を務め、国立大学病院長会議や全国医学部長病院長会議の会長としても人的ネットワークを築いてきました。国や自治体との交渉経験もあり、学長として先頭に立って積極的に対外活動も展開していきたいと考えます。
また、千葉大学はこれまでも、研究シーズを企業とともにビジネスイノベーションへとつなげるための「学術研究・イノベーション推進機構(IMO)」を創設するなど、財政資源確保のための手を打ってきました。今後も、寄付を含めた外部資金の獲得に力を注いでいきたいと思います。
運営基盤の強化という部分ではもう一点、風通しの良い組織づくりも重視しています。学長や理事が決めたことを一方的に上意下達するのではなく、決断の理由や背景をわかりやすく伝えたり、各学部や部署の声が大学本部に届くような双方向のコミュニケーションを実現したりすることで、透明性が担保された組織にしていければと考えています。

今回、学長就任にあたり、各学部を回って、そこで感じたのは、千葉大学が多様性に富んだ人材の宝庫だということです。人は画一的ではないので、挑戦したいことも人それぞれです。学生および教職員が専門性や個性を発揮し、しっかりと評価される環境を築いていく責任をひしひしと感じました。先ほど触れた双方向のコミュニケーションに加え、DXや様々な支援制度などを通して誰もが活躍できるような大学環境を整備し、これまで以上に魅力とやりがいのある大学にしていきたいと考えています。

中学3年の理科の教科書で、イギリスの生物学者 ジョン・ガードン博士の研究を知り、生命現象の不思議さに興味を抱きました。ガードン博士は核移植による細胞の初期化を示し、のちにノーベル生理学・医学賞を山中伸弥さんと共同受賞された先生です。大学に進む際、生命現象の理解を通じて人の命を救う役に立てる医学を学びたいと思って医学部への進学を決めました。
千葉大学を選んだ理由は、私が千葉に居住していたことに加え、臨床も強く有名な研究者や医師を輩出している伝統があったからです。私はもともと文系で英語が最も得意だったのですが、当時の千葉大学は受験科目に英語がありませんでした。受験だけを考えれば不利なので敬遠するところですが、医学を修める上で英語は不可欠と聞いていたため、入学してしまえばむしろ英語が頼もしい武器になると考え、あえて挑戦したのを覚えています。

関わる人すべてが自分らしさを追求し、ハッピーになれる環境をつくりたいという基本の部分は変わりません。中心になるのは言うまでもなく学生ですが、教職員も含めたステークホルダーすべてが、ハード面や環境など物理的な豊かさとともに、前向きな気持ちで活動できる「こころ」の豊かさも目指したいと思います。中山前学長が掲げられた「世界に冠たる千葉大学」は、その総体として実現するものと考えています。

教育、研究、社会貢献という従来からの方針に加え、私が運営強化と学内の環境整備を重視しているのは、学生や教職員が自分らしさを発揮して挑戦できる場にしていきたいからです。千葉大学では総合大学としての多様な授業科目と自主的な学修環境を提供しています。学生には、それらを積極的に活用し、限界を設定せず進むべき道を探して欲しいと思いますし、教職員には学生が充実した人生を送るためのサポートをお願いしたいと考えています。力を合わせて、誰もが活躍できる素晴らしい環境を築いていきましょう。


横手 幸太郎(よこて・こうたろう)

1963年4月28日生

1988年 3月千葉大学医学部卒業
1992年 8月ルードウィック癌研究所ウプサラ支部 客員研究員
1996年 2月スウェーデン国立ウプサラ大学大学院博士課程修了
1997年 4月日本学術振興会特別研究員
1998年 3月千葉大学大学院医学研究科博士課程修了
1999年 4月千葉大学医学部 助手
2006年 4月千葉大学医学部附属病院 講師
2009年 5月千葉大学大学院医学研究院 教授
2020年 4月千葉大学医学部附属病院 病院長(2024年3月まで)
4月千葉大学 副学長(病院担当)(2024年3月まで)
2021年 3月慶應義塾大学大学院経営管理研究科修士課程修了
2024年 4月千葉大学長

Doctor of Medical Science / PhD
(1996年2月 スウェーデン国立 ウプサラ大学)
医学博士(1998年3月 千葉大学)
経営学修士 / MBA(2021年3月 慶應義塾大学)

ライフサイエンス / 代謝、内分泌学、老化

日本内科学会、日本肥満学会、日本内分泌学会、日本老年医学会、日本動脈硬化学会、日本糖尿病学会、日本糖尿病合併症学会、日本肥満症治療学会、日本臨床栄養学会、日本臨床分子医学会など

「我、事において後悔をせず」

宮本武蔵が最晩年に書き残した自省の文「独行道」の一節です。何かに挑戦しようとするとき、人は必ず迷うものですが、それでも一歩を踏み出すには、後悔はしないという思いで決断し実行することが重要だと思います。この言葉を知ったのは中学生の頃で、以来、ずっと大切にしている言葉ですが、年齢を重ねるにしたがって私の捉え方が少しずつ変化しています。若い頃は無謀な挑戦をして失敗することもありましたが、現在の責任ある立場では失敗が許されないので、後悔しなくてすむよう、行動の前の決断に重きを置くようになりました。


優勝杯を持ち正座で座る大学時代の横手学長と剣道部の仲間
左から2番目が横手学長。
右から2番目が同級生で小説家の海堂尊氏

中学時代から剣道に熱中。大学時代は医学部の剣道部に所属し、日々練習に打ち込んだ。千葉大学在学中は、関東医師薬獣剣道大会の新人戦で優勝、東日本医科学生剣道大会の団体戦で準優勝した。スウェーデン留学時には現地の人々に剣道を教えたことも。大学時代の剣道部の仲間とは今でも交流が続いている。


プライベートのリフレッシュ法は、家族との会話と筋力トレーニング。仕事人間なので、休みの日には家族と顔を合わせ、他愛もない話をする時間を大切にしている。2009年に教授になって以降は、忙しくて竹刀を握る時間がなかなか持てなくなったが、コロナ禍を契機にジム通いを始め、毎週みっちりと汗を流している。

ジムでバーベルを担ぎスクワットをする横手学長

※記事に記載された所属、職名、学年、企業情報などは取材時のものです

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