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対談:田村憲久厚生労働大臣×横手幸太郎医学部附属病院長

※記事に記載された所属、職名、学年、企業情報などは取材時のものです

2020年10月、千葉大学OBである田村厚生労働大臣と、千葉大学医学部附属病院の横手病院長が対談しました。
医療の最前線で対応し続けているお二人に、現在の状況や今後の見通し、学生へのメッセージなど様々なお話を伺いました。

田村 憲久(たむら・のりひさ)

厚生労働大臣

1964年三重県生まれ。1988年、千葉大学法経学部(現法政経学部)卒業。伯父である衆議院議員・田村元氏の秘書を経て、1996年に衆議院初当選。2012年12月、厚生労働大臣に任命(第2次安倍内閣)。2020年9月、厚生労働大臣・働き方改革担当に任命(菅内閣)。

横手 幸太郎(よこて・こうたろう)

千葉大学医学部附属病院 病院長/教授

1988年、千葉大学医学部卒業。1996年、スウェーデン国立ウプサラ大学大学院博士課程修了。1998年、千葉大学大学院博士課程修了。2009年、千葉大学医学部附属病院糖尿病・代謝・内分泌内科 科長。2011年、同病院 副病院長併任。2020年4月、病院長・副学長に就任。

大臣と病院長の就任当時を振り返って

横手

田村大臣は2020年9月に厚生労働大臣に就任されましたが、コロナ禍の中、慌ただしい日々を過ごされているのではありませんか?

田村

一度目の就任時もデング熱などが流行していましたが、新型コロナウイルス感染症はそれを上回る、世界的に深刻なパンデミックとなってしまいました。ただ、以前の大臣経験のおかげで、「こう動けばいい」とある程度わかった上で動けるのは幸いでした。忙しさに変わりありませんが、過去の経験を活かして任務にあたることができています。横手病院長の就任も同年4月ですから、まさにコロナ禍のまっただ中ですね。

横手

はい。就任以降、新型コロナウイルス対策一色の日々でした。4~5月の第一波の時は最大33名の患者さんを受け入れ、感染症専用の陰圧室だけでなく一般病棟も開放して対応しました。6月に入ると少し落ち着いたことから、病床を再編成して医療資材の備蓄をし、第二波に備えました。そのおかげで、感染が拡大しても手術や入院、外来診療を制限することなく続けることができ、これまで院内感染も防ぐことができています。

コロナ重症化の早期予測の研究に期待

横手

今回は再任ということで、田村大臣が力を入れて取り組んでいきたいことや意気込みをお聞かせいただけますでしょうか。

田村

まずはやはり、新型コロナウイルス感染症への対策です。感染拡大を抑えることと、日常生活を取り戻すことを両立するべく、最優先で取り組んでいきます。それに関連して、オンライン診療の恒久化にも取り組みたいと思います。今は「コロナの影響で医療機関に行くのが怖い」という方々のために、緊急でオンライン診療も実施している状況です。今後は、平時に皆がしっかりオンラインで安全かつ信頼できる診療を行えるように調整していきたいと思います。

横手

オンライン診療が普及すれば、コロナ対策になるだけでなく、患者さんの利便性もとてもよくなりますね。

田村

はい。こうしてパンデミックが起こってしまった以上、その中でできる限りのより良い医療体制を作っていく必要があります。

横手

そうですね。私たち大学病院にとっては、患者さんの側に立った質の高い医療を提供するということがもっとも大事な役割です。現在はコロナに対する決定的な治療法やワクチンがなく、今後再び感染者が増えた場合は医療崩壊につながりかねません。患者さんの多くは軽症または無症状ですが、一部に重症化が見られます。特に高齢者や基礎疾患を有する方が重症になりやすいとされており、その原因の一つとして、新型コロナウイルスが血管障害や炎症をもたらすことがわかってきました。千葉大学では、医学部の基礎研究を通じて発見された血管炎症の指標となる分子に着目し、大学病院で臨床研究を行い、重症化を早期に予測するシステムの開発に取り組んでいます。重症化の可能性がある人を早く発見し、適切な医療を提供して、医療崩壊を防ぐことが目標です。

田村

それはありがたいですね。今、重症化をどう防ぐかが大きな課題になっています。今後の研究結果に大いに期待しています

横手

コロナについては様々なことが言われています。世界的に見て日本の対策はうまくいっているほうだと思うのですが、いかがですか。

田村

日本人は衛生観念が高く、スキンシップをあまりとらないので、欧米のような感染拡大を防げているのは間違いないと思います。ただ、第二波のピークを過ぎた9月から週平均500~600人の感染者が出ており、下げ止まりの状況が続いています。それほど増えもせず、かつ減りもしないのはなぜか、専門家を交えて分析しているところです。

感染症対策に配慮しつつ様々な交流を持ってほしい

横手

7年前、当時の齋藤康学長と学生たちで、田村大臣を訪問したことがありました(ちばだいプレスvol.25参照)。

田村

はい、覚えています。後輩にあたる法経学部の学生たちからの質問に答え、学生時代のことや座右の銘についてお話ししました。

横手

その時のインタビューで、田村大臣は地元に帰ると、家族との時間を大切に過ごし、お嬢様と親子3人川の字で寝ているとお話されていました。

田村

そんなことまで話していましたか(笑)。ちょっと恥ずかしいですね。

横手

現在、お嬢様は大学を卒業され、アナウンサーとしてたいへんご活躍です(TBSアナウンサーの田村真子さん)。これまでお嬢様に対して、職業や人生に関して何かアドバイスをされることはあったのでしょうか?

田村

私が世の中の動きに敏感に接する仕事なので、そういう職業に自然と興味を持ったのかもしれません。娘は大学時代に、4年間私と一緒に議員宿舎で生活していたのですが、よくこういう世界が嫌にならなかったなと思います(笑)。

横手

お父様の背中を見ていたのですね。大学生活といえば、このコロナ禍で、大学生の動きもずいぶん変わってきています。4月に入学して1回も学校に来ないまま10月を迎えて、ようやくキャンパスに通学できたという学生もいます。私たちの大学病院では、コロナの拡大を受けてしばらく医学生の実習を中止していましたが、第二波が落ち着いてきた8月末から、十分な感染対策をしてようやく実習を再開しました。なるべく閉塞感なく、若い人たちが安心して未来へと羽ばたけるように、私たちも応援したいと思っているのですが。

田村

人間はコミュニケーションをとる動物ですから、そうでないと生きていくのは難しいですよね。特に日本人は同じ地域にずっと永住してきた民族なので、人の表情や雰囲気から伝わる情報にとても敏感な国民性だと思います。今はリモートでのやり取りが広がっていますが、やはりそれだけでは伝わりにくい部分があります。大学生としての節度を持ち、換気をしてマスクをつけるなど、しっかりコロナへの感染対策をした上でいろいろなコミュニケーションを図っていただきたいなと思います。それが今後の大きな財産になってくるはずです。

横手

交流という意味では、海外留学も大事な経験です。千葉大学ではグローバル人材の育成に力を入れているのですが、今は留学ができなくなり、今後の見通しが立っていません。今後の国際 交流はどのようになっていくとお考えでしょうか。

田村

観光客の受け入れはまだまだですが、留学生に関してはPCR検査をした上で、日本の学生を受け入れてくれる国も徐々に増えてきました。日本が一定の経済力を持って豊かでいることが、世界での発信力を維持することにつながります。このような大変な状況ですが、若い方々にはぜひ海外に行って現地の方々と交流し、様々な経験を積んでいただきたい。千葉大学の皆さんにも、ぜひとも頑張っていただきたいと思います。

すべての人々に活躍の場を与えるのが厚生労働行政

横手

千葉大学では、2007年から医学部、薬学部、看護学部という医療系学部が連携して共に学ぶ「専門職連携教育」(Interprofessional Education=IPE)を導入しています。これからは患者中心の医療となり、医師だけでなく看護師や薬剤師など、様々なスタッフの協力が大事になってきますので、多職種の連携に学生時代から取り組んでいます。

田村

素晴らしいですね。近年はチーム医療とよくいわれていますが、それには相互理解がないと成り立ちません。皆が自分の力を最大限出せる環境を作る上では、学生時代から他の専門の人たちとコミュニケーションを取っておくことが非常に重要だと思います。

横手

私たち大学病院は、高度先進医療、あるいは最後の砦としての役割が求められている場所です。これからの大学病院に対して、期待や要望はありますでしょうか。

田村

やはり大学病院は知の集積地であり、日本の医療を引っ張っていく存在です。医療人材を養成し、全国に輩出する大きな役割を担っていますので、ぜひ今後も頑張っていただきたいと思います。
一方で、2020年度の医師臨床研修制度の改革や、コロナ禍での厳しい現状も伺っており、非常にご苦労をおかけしている現状です。厚労省としては、今後も予算面などでしっかり支援してきたいと考えています。

横手

前回のインタビューで、田村大臣が「光の当たらないところに光を当てるのが政治の大きな努めです」とおっしゃっていたのがとても印象的でした。今回の就任で、特にその点で心掛けていることはありますか。

田村

グローバルな社会になればなるほど、世界との競争が起こり、競争に取り残される方々がどうしても出てきます。厚生労働行政の役割は、現代社会においてなかなか力が発揮できない方々に、本来の力を発揮していただけるように環境を整えることです。セーフティネットを作り、あらゆる方々に役割を担っていただける社会にするべく、様々な対策を行っていきたいと思います。


MESSAGE

日本は少子高齢化ですが、世界に目を向けると、皆さんと同じ若者たちが大勢います。自分たちの世代が世界を動かしていくんだという気概を持って、これからの日本を引っ張っていただきたい。今後の皆さんの活躍に大いに期待しています。

MESSAGE

大学生活は社会の予行演習です。大変なことも楽しいことも、想定外のことも貪欲に経験してください。未来の社会を良くしようという思いで、大学での日々を過ごしていただきたいと思います。多くの良い仲間と出会い、人としての生活を豊かにしてください。

※記事に記載された所属、職名、学年、企業情報などは取材時のものです

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