千葉大学では、2021年に策定した「千葉大学ビジョン」に基づき、多様な支援や人材育成などを含む研究推進と、世界に向けた発信に力を入れています。
この特集では、研究担当理事としてその先頭に立つ藤江幸一理事へのインタビューのほか、国際高等研究基幹やCHIBADAI NEXTといった最新トピックについても紹介します。
2021年7月の「千葉大学ビジョン」策定から1年強が経ちました。
実現に向けた取り組みを教えてください。
IMOの具体的な役割や意義を教えてください。
藤江
イノベーション実現のためには幅広く外部と連携・協働することが必須であり、IMOでは産官学に公(自治体)と金(金融機関、ベンチャーキャピタルなど)も含めた共創を推進しています。大学の研究成果に基づく知的財産や技術シーズは、産官学公金が連携することで社会実装が進みます。論文発表でとどまるのではなく、社会実装を目指すよう教職員のマインド変革を推進するのも、IMOの大きな役割だと考えています。また、これからの大学は経営的な視点がより必要であり、その点でも研究力向上のための支援は不可欠です。研究の質と量の向上は、一層の科研費(科学研究費補助金/学術研究助成基金助成金)、受託・共同研究費や特許のライセンス料の獲得などに繋がります。結果としてさらに大学の評価や知名度、そして研究力が向上するという好循環をもたらします。
IMOの仕組みについて教えてください。
藤江
IMOには、研究そのものを推進する「学術研究基盤支援部」、社会実装に向けた支援を行う「プロジェクト推進部」、知財や技術シーズを管理して民間企業などとマッチングする「知財・技術移転部」が設置されています。ここで重要な役割を果たすのが、「URA(UniversityResearch Administrator)」という役職です。教員の研究テーマを正しく理解して評価し、知財や技術シーズを見出し、社会実装への道筋をつけるのがURAの役割。教員とURAが協力することで新たな価値を生み出すことにもなりますし、教員のモチベーションも高まっていると感じます。
これまでの取り組みを通じて、どのような実績や効果が生まれていますか。新しいトピックなどもあれば教えてください。
藤江
多くの研究が世界的に高い評価を得ています。技術シーズの実用化が増加し、保有特許数や技術移転率の向上をもたらしています。現在、基盤的研究費の獲得とスタートアップ支援には特に力を入れています。より上位種目の科研費への応募件数が増え、採択件数および配分金額が増加しています。また、IMOでは毎年、学生・教職員を対象とした起業コンテスト「なのはなコンペ」を開催しております。2022年度開催の第20回では後援団体からの各賞に加えて、上位入賞グループにはGAPファンドとも言える試作や性能試験などのための資金提供も開始しました。次世代を先導する中堅・若手研究者の育成を担う「国際高等研究基幹(IAAR)」が2022年度にスタートし、新たな価値の創出による社会・経済の発展に貢献する世界的なイノベーション研究拠点化を目指しています。千葉大学の研究を世界に向けて発信するオウンドメディア「CHIBADAI NEXT」もスタートしました。私たちが目指す研究推進と社会貢献の好循環が回り始めていると感じています。
最後に、千葉大学のポテンシャルをどう感じているかを教えてください。
藤江
私が千葉大学に赴任したのは2021年。それ以前は他大学から千葉大学を見させていただき、うらやましく思っていました。10学部17大学院を擁する総合大学であり、地理的にも東京に近いというアドバンテージがあるからです。研究分野がこれだけ幅広いのですから、全学的にアイデアを持ち寄ればオンリーワンの研究を生み出すことも可能ですし、地の利もある千葉大学のポテンシャルは計り知れません。実際に自治体や金融機関、企業、NPOといった各方面との連携も進んでいますし、千葉大学発の産官学公金プラットフォームを育てていければ、世界的にも存在感を示せるのではないかと期待しています。
国際高等研究基幹
(Institute for Advanced Academic Research: IA)
学際的先端研究および価値を創造するイノベーション研究拠点
国際高等研究基幹(IAAR)とは?
IAARは、2021年7月に策定した「千葉大学ビジョン」に掲げる『国際頭脳循環の中核として世界最先端の研究を展開』の実現・加速化に向け、2022年4月に発足した組織です。
IAARのことをもっと知りたい方はこちらをご覧ください!IAARが支援する研究計画や研究者の情報を掲載しています。
研究人材の育成
中堅・若手研究者のさらなる飛躍を支えるため、研究環境の整備を行い、研究者のキャリアに応じてシームレスな支援を行います。
01. 卓越した研究者集団の形成
優れた研究業績を挙げている中堅・若手が引き続き活躍できるよう、安定した研究環境を提供し支援しています。
02. テニュアトラック准教授の採用
千葉大学内・外で活躍している若手教員をテニュアトラック准教授として採用します。採用後の研究成果が認められることによりテニュアポジションの取得が予定されています。
注)テニュア研究者とは、その優秀さをもって終身雇用資格を得た研究者であり、テニュアトラック研究者とは、任期内に審査を経て終身雇用資格(テニュア)を得るために任用された研究者である。
03. 特任助教の採用
千葉大学大学院の博士号習得者や日本学術振興会特別研究員などで活躍している優秀な若手研究者を特任助教として採用し、研究者としてのキャリアパス形成を支援しています。
国際高等研究基幹(園芸学)
南川 舞 特任助教
園芸植物は人との関わりが深く様々な興味深い現象が知られていますが、そのメカニズムは不明な点が多いです。統計遺伝学(情報解析)と分子遺伝学(生物実験)を融合したアプローチによって園芸植物のゲノムを巨視的あるいは微視的に眺めながら、園芸植物の遺伝的なメカニズムの解明と画期的な新品種の創出を目指したいと考えています。
研究支援プログラム
研究者が推進する研究を加速・充実させ、優れた研究成果を創出するとともに、大型研究費の獲得や研究拠点の形成を目指すことを目的とし、2つの研究支援プログラムを開設しました。
01. 学際的先端研究支援プログラム
学理・真理を探究し新たな研究領域の開拓を目指す意欲的な研究課題および基盤的研究の向上に貢献するプログラムを支援します。
ex.
衛星ビッグデータとデータサイエンスの統合による地球環境・災害予測研究の新展開
(国際高等研究基幹 教授 小槻 峻司)
衛星観測ビッグデータを、深層学習を始めとするデータサイエンス技術により統合し、気象環境・災害予測研究の抜本的深化を図ります。
ex.
ニュートリノが拓くマルチメッセンジャー天文学研究拠点形成
(ハドロン宇宙国際研究センター 教授 吉田 滋)
ニュートリノ観測能力の大幅な向上を図ると共に、マルチメッセンジャー天文学を確立し、ハドロン宇宙国際研究センターの世界的な中核研究機関としての飛躍を目指します。
02. 社会価値創造研究支援プログラム
研究活動によって生まれた成果の社会実装を通じて、新たな未来社会の社会変革をもたらすことを目指す意欲的な研究課題を支援します。
ex.
未来粘膜ワクチン・アレルギー治療学国際研究拠点における粘膜ワクチン・免疫療法開発
(医学研究院 教授 中島 裕史)
アレルギー疾患や多様な呼吸器感染症を標的とする粘膜ワクチン開発の礎となる基盤研究を推進し、その成果をもとに臨床応用・社会実装を目指します。
IAARのキックオフシンポジウムを開催しました!
2022年7月27日、学長主催講演会シリーズの第2回目として「千葉大学から世界へ-新たな知の創出と価値の創造-」と題し、IAARの研究支援プログラムで展開される最先端研究の一端を紹介するシンポジウムを開催しました。
2022年度に同プログラムに採択された20名の教員(推進リーダー)が登壇し、自身が取り組む研究概要を紹介しました。対面・オンライン併用での開催で、およそ200名が参加しました。
研究の発信
千葉大学と社会をつなぐ
研究の魅力発信オウンドメディア
CHIBADAI NEXTとは?
CHIBADAI NEXTは、2022年6月に新たに開設した、千葉大学の各分野の最先端の研究内容や研究者などの情報を広く社会に発信するメディアです。これまでも大学の公式ホームページや、学会発表、本学主催の講演会・イベントなどで研究成果を発信してきましたが、このメディアを通じてより一層研究発信力を高め、産業界、他大学、公的研究機関、地方公共団体なども含めた幅広い連携の促進を目指します。
#CHIBADAIストーリー
千葉大学の様々な研究や産学連携事例の紹介、時事解説などを行うコーナーです。最先端の研究でも一般の方にわかりやすく、そしてそれぞれの研究者の「顔」が見えて身近に感じていただけるような記事を発信しています。
#次世代を創る研究者たち
若手を中心に多彩な研究者を取り上げるコーナーです。その研究分野に興味を持ったきっかけや研究の魅力などを紹介しています。記事を通して、研究者の熱意や人物像なども伝えていきます。
英語版も続々公開
日本語版のみならず、一部の記事は英訳し、英語版ページにまとめて掲載しています。今後も続々と記事を掲載し、国内のみならず、海外にも千葉大学の研究成果をアピールしていきます。
このほかにも
「#中山学長特別企画」や一般の方が参加できるイベントの紹介など幅広いコンテンツを公開中!
藤江
「千葉大学ビジョン」には4つの項目がありますが、そのうち研究に直接関連する項目は、「国際頭脳循環の中核として世界最先端の研究を展開」と「社会に大きく貢献する千葉大学」の2つです。前者は、最先端の研究で成果を挙げ、論文や技術シーズを生み出す「大学価値の創出」、後者は、そうした研究成果からイノベーションを創出し、社会実装を目指す「社会価値の創出」と言い換えてもいいでしょう。千葉大学には、世界的に高い評価を得ている研究成果が数多くあり、現在も成果を生んでいます。こうした価値を社会に共有してイノベーション創出や課題解決などに貢献するのが、「千葉大学ビジョン」の基本的な考え方であり、それを推進する役割を2020年4月に設置された学術研究・イノベーション推進機構「IMO」が担っています。