文部科学省が推進する官民協働の海外留学支援制度「トビタテ!留学JAPAN」プログラム(以下、トビタテ)。「何を学びに行くのか」「その学びをどう社会に還元できるか」という意欲を選考で重視されるのが特徴で、千葉大学からも挑戦する学生が増えています。
今回お話を聞いたのは、米国・ヴァンダービルト大学で低分子医薬品につながる有機化学を研究した融合理工学府先進理化学専攻 博士前期2年の水野夏希さんと、イタリア・ミラノ工科大学で建築の再利用・保存を学んだ 融合理工学府創成工学専攻 博士前期2年の桑原葵さん。
「海外経験ゼロでも行けた」「生活を含めて全てが学びだった」――2人の答えには、これから留学を考える人が背中を押してもらえるヒントがたくさんありました。

「トビタテ」を選んだ理由
――最初に「留学しよう」と思ったきっかけを教えてください。
桑原さん(以下、敬称略):大学院で建築について勉強していると、授業や専門書には海外の事例や議論が頻繁に出てくるんです。「かっこいい」「実物を見たいな」と思いながらも、日本にいるだけだとどうしても写真や図面、文字の世界で終わってしまう。徐々に「最新の状況を自分で確かめに行きたい」と思い始めました。
ただ、長期で行くとなると高額な費用がかかります。そこで見つけたのがトビタテでした。成績より「自分がやりたいこと」でアピールできますし、全国から集まる同世代とつながれるのも魅力に感じました。


水野さん(以下、敬称略):私は小さい頃から異文化交流に興味があり、学部生のうちに渡航したかったのですが、ちょうどコロナ禍で叶わなかったんです。「このまま大学院での学びを日本だけで終えるのはもったいない」と思い、調べている中でトビタテに行き着きました。
そもそも理学部から長期留学する人はあまり多くないのですが、トビタテは「留学経験を将来日本にどう還元するか」が重視されていて、また「自由な留学計画を受け入れている」プログラムであるところに惹かれ、「自分の研究の知識を海外で深めたい」という思いで応募を決意しました。
――選考で工夫したポイントはありますか?
水野:書類選考の後、グループ、個人と2回の面接があるのですが、面接に関しては留学生課が行っている対策会がとても役立ちました。一緒に選考に進んだ学生や就職支援課のアドバイザーの先生、留学生課の職員の方に伝わりづらいポイントを指摘してもらいながら、誰でもわかるような内容にブラッシュアップしていきました。
あとは、自身の学びがどのように社会貢献につながるかということを、熱意を持って話せたのは良かったなと考えています。
桑原:私は、面接官が研究の専門家ではないことを踏まえ、ニュースで話題になった国立競技場のデザインを事例に出しました。そこから自分が取り組もうとしている「再利用する建築」のテーマへ展開したので、面接官もイメージしやすかったようです。
あと、意識的に、あいさつを明るく元気にしました。トビタテは語学よりも、「海外でしっかりとやっていけるか」という意欲の面をしっかりと見られていると思うので、少しはプラスになったかなと思います(笑)。
研究テーマを深められた、それぞれの留学
――どのように行き先を決めたのですか?
水野:私はまず、渡航先をアメリカに絞りました。アメリカは医薬品の市場規模が大きく、アカデミアと企業の距離も近いため、研究成果がどうやって産業に還元されていくかを肌で感じられると思ったことが大きな理由です。その後、自分のテーマに近い研究室を探し、条件や指導教員の研究分野を絞り込み、最終的に指導教員とも相談のうえ、米国・ヴァンダービルト大学に決めました。
初めての海外で不安もありましたが、大家さんが1階に住んでいる家を借りられたことで、生活面で困ったときにすぐ聞ける環境だったのは助かりました。

桑原:私はイタリアの建築に関心があり、「行くならイタリア」と考えていました。ミラノ工科大学は千葉大学の協定校でもあり、都市としても「新しいものと古いものが同時にある」街なのでぴったりでした。
ミラノは街のスケール感や新旧入り混じる文化の在り方が、自分の関心と最も重なる場所でした。また、千葉大学に留学生として来ていたイタリア人の友人がミラノ工科大学に在籍していたことも心強く、「知らない土地に飛び込む」という不安がだいぶ和らぎました。

――留学先での授業や研究はどんな雰囲気でしたか?
水野:私は授業を受講せず、研究に特化した留学だったため、ひたすら実験をしていました。日本で取り組んできた内容とベースは同じなので、構造式を描いたり論文を見せ合ったりすれば意思疎通はできましたが、設備や実験手法が日本とは異なっていて、その違い一つひとつが新鮮で刺激になりました。

一番大変だったのは専門英語です。最初は発音が聞き取れず、何度も聞き返していましたが、同じ研究室のみんなが教えてくれて、少しずつ覚えていきました。「分からないと言っていい」「聞き返していい」と自然に思えるようになったこと自体が、大きな成長だったと感じています。
桑原:授業はすべて英語で大変でしたが、図やスケッチで伝えられるので、思っていたより乗り越えやすかったです。イタリア人の話す英語は発音がはっきりしていて、日本人には聞き取りやすいんですよ。また、分からなかったところは何回も録画した授業の動画を見直して補いました。

おもしろかったのは、遺構の保存や再利用のプロジェクトで日本では見たことのない調査ソフトが使われていたことです。「こうやって街の履歴を残しながら設計していくのか」と実感できて、将来やりたい「その土地の魅力と愛着を育てる建築」のイメージがかなり具体的になりました。
現地で見聞きし感じたものと、今後の展望
――「留学したからこそ得られた」と感じる成果について教えてください。
水野:一つは「世界の今」に直接触れられたことです。私の研究していた光触媒は今すごく盛り上がっている分野で、ヴァンダービルト大学にもさまざまな研究者がやって来て講演してくれていたんです。そういう場に気軽に参加できるのは、渡航した人の特権だと思います。
もう一つはメンタル面で、前向きに考えられるようになったことです。初めての海外、しかも日本人がいない環境に一人で飛び込むのは不安でしたが、英語も実験も周りが思っていた以上に助けてくれました。困ったら相談する、分からなければ聞く――そうやって自分で環境を切り開く力がついたのは、これからの自分にとって大きな財産になったと思います。


桑原:私は日本にはない視点で、ものごとを捉えられるようになったことです。それぞれの国の歴史や文化があり、どちらが正解というようなものではありませんが、異なる文化圏で生活できたことで、今後は日本の建築について偏った見方をするのではなく、広く考えられるようになると思っています。
――帰国後の進路やキャリアにはどうつながりそうですか?
水野:製薬・化学の分野では海外の研究動向をキャッチできる人材が求められているので、今回の経験は強みになると感じます。現地でできたつながりが橋渡しとなって、将来日本とアメリカの研究者同士の交流がさらに広がっていけばいいなと思います。

桑原:私は現在、就職活動中です。留学していたため、通常の期間中に就職活動ができなかったのですが、留学は「自分の目指す建築像を深めるために必要な時間だった」と思っています。今回の留学で得た知識や経験は重宝されると思うので、そこを武器にしていきたいですね。
これから留学をめざす人へ応援メッセージ
――学生さんの中には「海外は不安」「渡航後のイメージが沸かない」と考える人もいるのではないかなと思います。留学前の学生さんに向けて、最後にメッセージをお願いします!

桑原:行ってみると、想像以上に楽しいです。ヨーロッパならバスやLCCで周囲の国に気軽に行けますし、現地でできた友達と遊ぶこともとても良い経験です。そういった生活としての楽しさがあるからこそ、専門の勉強にも前向きに取り組めました。
「授業についていけるかな」と心配するより、「そこでどんなふうに暮らそうかな」と考えてみると一歩踏み出しやすくなると思います。
水野:「語学が完璧じゃないから」「卒業や研究が遅れそうだから」と理由をつけて足踏みしてしまいがちですが、実際に行けば「なんとかなる」し、周りも助けてくれます。
「行きたい」と周りに言う、留学した先輩に相談する、学内の対策会に出る――そうやって人を巻き込むと、自然と情報も支援も集まってきます。トビタテは自由な計画でも受け止めてくれる制度なので、少しでも興味があるなら早めに声をあげてみてください!
お二人とも、ありがとうございました!
留学のハードルは、実は「行く前に一人で抱え込んでいるとき」が一番高く、現地に着いてしまえば2人のように自分で環境をつくり、楽しみながら乗り越えられるようです。
千葉大学には、今回2人が参加したような学内の支援や事前の対策の場もあります。留学をきっかけに、あなたも世界で試してみませんか?
2025年度トビタテ合格者のインタビュー動画も大変参考になりますので、ぜひ動画をご覧ください!
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